財政支援策の段階的廃止に伴い企業倒産は増加の見通し(下)
今後の世界的倒産動向
企業倒産はほとんどの国で2021年下半期と2022年に増加すると予想されます。2021年通年では、世界の企業倒産は前年比 1%の小幅な減少を示した後、2022年に33%と大きく増加する見通しです。
2021年から2022年にかけた企業倒産の予想は3つの要因に基づいています。第1の要因は、本来であれば(財政パッケージや倒産猶予がない)2020年に発生していたであろう企業破綻の遅発効果です。
倒産予想の根拠となる第2の要因は、財政支援が段階的に廃止されることで、これをきっかけに企業倒産は基本的に「通常」レベル、つまりパンデミック前に観測されていたものに近い水準に向けて増加する見通しです
倒産予想の第3の根拠となる要因は経済発展の影響で、これは2つの要因に依存しています。それらは、GDPと潜在GDPの差(回復の強さ)と、このGDPギャップに対する企業倒産の感応性です。この第3の要因は、景気サイクルに対する企業破綻の動きを捉えるものです。
今後の地域的倒産動向
地域別では、今年は欧州で倒産件数が増加すると予想される一方、北米とアジア太平洋では減少傾向が持続する見通しです。2022年にはこれら3つの地域すべてで企業倒産が増加し、最大の伸びはアジア太平洋で、それを下回る伸びが欧州と北米で確認される見通しです。アジア太平洋地域では2021年の低位からの高い伸びとなる一方、北米では、相対的に強い米経済の成長がある程度の倒産抑制効果になると予想されます。また、欧州では2年連続で倒産件数が増加する見込みです。
2021年と2022年の国別の予想を見ると、調査対象国の大半で倒産件数が増加すると予想されます。イタリア(+34%)、英国(+33%)、オーストラリア(+33%)では、倒産件数がパンデミック前比で最も高い伸びを示すと考えられます。他の主要国では、スペイン(+26%)やフランス(+23%)、米国(+6%)などでも2022年に増加が予想されます。
2022年までの企業倒産の動きが比較的安定している国もあります。ドイツ(+2%)と、ドイツほどではないものの、スウェーデン(+3%)、そして日本(+4%)がその例です。
ブラジル(-35%)、韓国(-15%)、そしてアイルランド(-10%)は、2019年との比較で2022年に倒産件数の大幅な減少が見込まれる唯一の国です。
2022年以降倒産動向
2022年以降については、企業倒産は再び減少し始めるか、一定の水準を維持すると予想されます。これは、倒産件数がそれまでに概ね通常の水準に戻り、支援なしでは存続できないゾンビ企業が破綻していると考えられるためです。財政支援の段階的廃止により企業は大規模な政府援助のない環境での経営を再び迫られるようになるため、一部が短期的に窮地に立たされかねないのは明らかです。新型コロナのパンデミックを生き残るために借り入れを増やした企業は、特に脆弱な状態にあると考えられます。
日本の2021年度上半期(2021年4月―9月)倒産動向
株式会社東京商工リサーチの全国企業倒産状況報告によりますと、2021年度上半期(4-9月)の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、件数が2,937件(前年同期比23.8%減)、負債総額が5,746億2,600万円(同4.0%減)でした。件数は、年度上半期では2年連続で前年同期を下回りました。1972年度以降の50年間で最少だった1990年同期(3,070件)を下回り、最少記録を更新しました。コロナ禍での国や自治体、金融機関による緊急避難的な支援策が奏功し、倒産は記録的な低水準を持続しています。負債総額は、年度上半期では2年ぶりに減少、1972年度以降では1973年度(3,631億100万円)に次いで、3番目の低水準でした。
倒産の特徴は次の通りです。
- 「後継者難」倒産が181件(前年同期173件)発生
- 上場企業倒産は2年ぶりに発生なし(同2件)
- 形態別件数:法的倒産の構成比が年度上半期としては最高の97.1%
- 都道府県別件数:前年同期より増加が6県、減少は39都道府県、同数が2県
- 負債額別件数:負債1億円未満の構成比が75.4%、10億円以上は2年ぶりに100件割れ
- 業種別件数:飲食業、宿泊業などが減少する一方、旅行業が大幅に増加
- 従業員数別件数:10人未満の構成比が、年度上半期では30年間で初の90%台
- 中小企業倒産件数(中小企業基本法に基づく)が年度上半期では2年連続で100%に達せず