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Researcher report

研究員レポート

海外取引のコンプライアンアスについて(3)マネー・ローンダリング対策/テロリスト資金供与対策(AML/CFT)

マネー・ローンダリング対策/テロリスト資金供与対策(AML/CFT)

1.FATF勧告の内容と影響

政府間組織FATF(金融活動作業部会)は、法執行、刑事司法および金融規制の分野において各国が取るべき対策の基準として、FATF勧告を発表しています。FATF勧告はソフトローに該当しますが、「相互審査」によるモニタリングと「高リスクおよび非協力国・地域」へのサンクションというメカニズムを通じて効果を発揮しています。日本も2019年第4次、そして直近では2021年6月に審査を受けています。

AML/CFT規制は、企業・金融機関に対し、リスクの高い国・地域との取引についてはより高度の確認を求めています。「高リスクおよび非協力国・地域」の認定を受けると事実上国際金融市場へのアクセスが困難になります。

FATF勧告改訂

FATF勧告は時代の要請に合わせて改訂されており、その目的はマネロンだけでなく、テロ資金供与対策、麻薬取引・組織犯罪対策、大量破壊兵器拡散防止、腐敗防止などにも及んでいます。

2012年第4次勧告の概要

2012年第4次勧告の概要を簡単にまとめると①リスクベース・アプローチの強化、②実質支配者に関する透明性の向上、③腐敗・税犯罪・大量破壊兵器拡散など新たな脅威への対応を明確にしたことです。

取り分け②実質支配者に関する透明性の向上に関しては、腐敗行為防止の観点からPEPs(重要な公的地位を有する者:Politically Exposed Persons)の定義を拡大し、外国だけでなく国内のPEPsなどに関しても、金融機関による厳格な管理が求められるようになりました。

相互審査における審査方法

審査方法は2つの要素で評価され、1つは「技術的遵守状況」(Technical Compliance)というもので、勧告実施のために必要な法律、規制その他の施策が存在するかの評価で、もう一つが、「有効性」(Effectiveness)で、即時的成果を達成しているかどうかを評価するものです。

2.日本におけるAML/CFT規制の状況

犯罪収益移転防止法(犯防法)の概要

2007年に成立した防犯法はAML/CFTに関する規制を定めており、特定業者に対し、取引時確認、記録の保存、疑わしい取引の届出などの義務が規定しています。

「特定事業者」は金融機関のみならず、ファイナンスリース事業者など幅広く規定されています。「特定業務」に関しては、防犯法施行令6条において、特定事業者の種類に応じて業務が特定されています。「特定取引」も同じく防犯法施行令7条において、特定事業者の種類に応じて取引が特定されています。この「特定取引」にはハイリスク取引も含まれ、なりすましの疑いがある取引、または本人特定事項を偽っていた疑いのある顧客との取引、特定国に居住・所在している顧客との取引、および外国PEPsとの取引が含まれます。従い近年、海外顧客と取引する場合、顧客の確認、いわゆるKYC(Know Your Customer)、並びに顧客の継続的なリスク・モニタリングが極めて重要になってきています。

2011年防犯法改正(施行2013年)、並びに2014年改正(施行2016年)のポイント

まず2011年の改正では本人特定事項に加え、取引を行う目的、職業または事業内容、実質支配者、資産および収入の状況が、確認事項として追加されました。また、事業者は情報を最新の内容に保つための措置を講じること、使用人に対する教育の必要な体制の整備に努めなければならないことが規定されました。さらに罰則も強化されました。

2014年の改正では、実質支配人の範囲を拡大し、実質支配者を確認することを義務付けました。また、疑わしい取引の判断方法の強化が図られました。さらにこの時、PEPsとの取引がハイリスク取引として指定されました。

2016年対日相互審査結果について

2016年8月にFATF第4次対日相互審査結果が発表されました。残念なことに、FATF勧告が十分履行ていないことを理由に、日本は「重点フォローアップ国」(Enhanced Follow-up)として、より頻度の高い報告義務が課せられました。

「技術的遵守状況」評価は、勧告8(非営利組織)については全く勧告を履行していないとされ、40のうち10の勧告項目いついて、一部しか勧告を履行していないとの低い評価を受けました。また、「有効性」評価は11項目の内8項目が中程度しか有効でないと、これも低い評価を受けてしまいました。

特に報告書の中で非営利法人(NPO)は、テロ資金供与の活動に巻き込まれる危険性があると警告を受けました。さらに経済制裁実施不足も指摘されています。

日本政府は、この相互審査結果における提言もふまえ、警視庁・財務省共同で「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議」を設置するとともに、今後3年間の行動計画を公表しました。

今後、日本ではAML/CFT規制が強化されることが確実ですので、企業としても現状の法規制・法実務とFATF勧告のギャップを十分認識した上で、そのギャップを埋める体制整備を行っていくことが求められると思われます。

以上

参考文献:高橋大祐著「グローバルコンプライアンアスの実務」一般社団法人金融財政事情研究会発行