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Researcher report

研究員レポート

経営上の与信管理体制

はじめに

企業が社内で与信管理体制を構築し、効率的に運用することは簡単ではありません。様々な理由により与信管理体制が機能しないケースが出てきます。例えば、売上(営業)優先で与信管理規定が守られない、与信管理規定のノウハウが徹底されず生かされていない、さらに取引先の決算書が入手できず、適正な取引先の信用リスクの評価がなされていないなどです。

取引先の信用リスク

取引先の信用リスクは、与信額と取引先の倒産確率などで評価されますが、この検証が適切にできないとリスクが定量化できません。また、全社的な与信管理体制が出来ていないと正確なリスクが把握できないので、与信管理体制は構築すべきでしょう。機会損失を減らし、利益を最大化するには、信用リスクのマネジメントに関する人・物・金の配分を最適化し、与信管理を効率的に行う必要があります。与信管理体制は構築したものの、取引先の定期的な調査をせず、取引先の信用状況悪化に気づかず、取引を継続し、貸し倒れが発生してしまうケースなどもあります。与信限度額は最低1年に一回以上見直し、取引先に信用不安の情報が出た場合には、即座に与信限度額を見直せる体制を整備すべきでしょう。特にコロナショックで、業績が悪化している取引先については細心の注意が必要です。

与信管理ノウハウの徹底

与信管理のノウハウを従業員に徹底する人事政策も大切です。最前線の営業担当者が取引先に訪問しても、取引先の正確な情報収集を怠ったり、異常に気付かなければ、与信管理規定も役に立ちません。与信管理体制も変化の激しい世の中では、時代に合ったものでないと、適切なリスク評価が出来ない為、注意が必要です。企業内で与信管理を効率的に行うには営業、財務、管理、システム、人事部門などが横断的に連携することが重要で、これが経営に必要とされる組織的な与信管理体制の構築です。オンラインの与信管理ツールなどを活用すれば、本社から、各支店・営業所の取引先の与信限度額をリアルタイムで確認できるので、与信管理体制の効率化が図れます。

PDCAを継続

以上のような、与信管理体制を継続的かつ有効に機能させるためPlan(計画)→Do(運用)→Check(見直し)→Act(改善)のプロセスマネジメントを行っていくべきです。いわゆるPDCAサイクルです。具体的には、Planの段階で与信管理規定の構築、管理すべき与信取引の特定です。そして社内格付けにて与信ポートフォーリオの分析をし、全社的な信用リスク評価を行います。Doの段階では個別取引先の与信方針を決定の上、与信限度額を決定します。Checkの段階では与信管理ルールが適正に機能しているか監督します。最後のActの段階ではCheckの段階で判明した問題点の対策、組織体制の見直しなどを実行していきます。このようにPDCAサイクルを循環させることにより、より効率的な与信管理体制の構築が出来ていくことになります。

まとめ

与信管理システムを定量化しても、全ての与信管理がうまく機能する訳ではありません。定量化のメリットは応用性があり、利用するのが簡単で、属人的でないこと、さらに作業の効率化、与信管理の強化が図れることです。企業では売上収益をあげる営業部門と与信限度額を管理している与信管理部門との間では、どうしても利害が一致しない場合が出てきますが、社内のコミュニケ―ションを図り、リスク・マネジメント意識が社内で醸成されることが大切だと思います。与信管理に完璧なものはなく、大きく変わる時代の変化に対応した与信管理体制を全社的に追及していき、実務に合った運営をしていくべきと考えます。

 

参考文献:リスクモンスター(株)編「与信管理論」(株)法事商務発行