政府の財政支援策の終了に伴い、 倒産が増加(上)
2022年世界経済の見通し
2022年には、世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミック(大流行)による危機から脱却し、ほとんどの国や地域で規制が解除されると思われます。
しかし、経済成長の観点から見ると、経済再開による利益の大部分はすでに使い尽くされています。さらに、サプライチェーンのボトルネック、消費者需要の増加、ウクライナ戦争は、物価上昇圧力を高め、成長の足枷となりそうです。
しかし、世界経済が景気後退期に入るのは、先のことになるのではないかと思われます。これは、ロシアとウクライナの経済が世界経済に深刻な影響を与えるほどの規模ではない(世界のGDPの2%未満)ためです。世界経済の成長に対しては、一次産品価格の高騰という形で影響があるでしょう。
2022年の世界のインフレ率は6.1%と予測されています。これは、消費者の購買力に悪影響を及ぼし、世界のGDP成長率は2021年の5.9%から2022年には3.4%と緩やかに下降する見込みです。
2022年新興国グループの経済成長率
新興国グループの成長率は、2021年の6.9%に対し、2022年は3.7%となりそうです。今年はワクチン接種が進むことで、生産高の伸びや消費意欲の向上につながる可能性があります。
新興国の多くは、2022年、金融・財政政策の支援縮小に転じると思われます。ブラジル、ロシア、メキシコなどの新興国の中央銀行は、インフレ率の上昇を受け、利上げに踏み切っています。
政府による財政・金融支援策が縮小されることで、経済成長率に緩やかな影響が見られるでしょう。2022年、アジアの新興国が引き続き、最も急速な成長を維持しています(成長率は5.2%)。
中国では、不動産バブルの崩壊と新型コロナウイルス対策の厳しい規制により、2022年の成長率は4.8%と緩やかなものになっています。
東ヨーロッパでは、欧米諸国の厳しい制裁措置により、ロシア経済が今年から深刻な景気後退(10.9%減)に入ると見られています。トルコ経済も、物価上昇によるインフレ、サプライチェーンの混乱、地政学的な不確実性などの要因で、成長が鈍化しています。
2022年先進国の経済成長率
先進国の成長率は3.1%に低下すると予想されています。米国のGDP 成長率についても、サプライチェーンの混乱や財政指標の見直しにより、2022年度は緩やかになると思われます。
また、ユーロ圏のGDP成長率は、サプライチェーンの混乱とウクライナ紛争により、2022年、大きく減速すると予想されます。ユーロ圏は、エネルギーを介してロシアと密接な関係にあるため、ロシア・ウクライナの紛争がもたらす経済的影響を比較的大きく被るようです。
紛争は2023年までに沈静化し、ユーロ圏への石油・ガスの供給に大きな支障が生じないものと想定されています。逆に最悪のシナリオも考えられますが、その場合は、ユーロ圏のGDP成長率はさらに悪化するでしょう。
2022年財政・金融動向
2021年と比較すると、2022年は政府による財政支援が縮小されるものの、ほとんどの先進国市場では、財政状況は引き続き拡大傾向にあるようです。
一方、中央銀行は金融引き締めに転じています。米国連邦準備制度理事会(FRB)は今年3月25BP(ベーシスポイ
ント)、5月に50BP の利上げに踏み切り、イングランド銀行ではすでに数回の利上げを実施しています。
ECBでは、資産購入プログラムを縮小しており、利上げは 2022年の第4四半期に行われると思われます。しかし、全体としては、企業の財政状況は引き続き良好のようです。
2021年世界の倒産動向
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の間は、世界的に倒産件数が大幅に減少しました(2020年~2021年の世界の倒産件数は累計で29%減少)。
このような状況になったのは、2つの政策が原因です。第一に、ほとんどの国が、企業を倒産から守るために破産法を変更したことが挙げられます。次に、世界各国の政府は、感染拡大による経済に対抗し、小規模事業者を支援するための対策を講じたことです。
2020年と2021年の倒産件数増加率
図1 は、2020年と2021年の倒産件数の増加率をまとめたものです。ほとんどの国が縦軸の左側に位置しています。この図から深刻な景気後退にもかかわらず、2020年は倒産件数が減少したことがわかります。
これは、政府の手厚い金融政策が存続する体力のある企業だけでなく、ゾンビ企業、すなわち平時であっても債務不履行に陥った企業までも救った結果によるものでしょう。2020年の倒産件数は、シンガポール、オーストラリア、フランス、オーストリア、ベルギー、イタリアなど、企業を経営破綻から守るため、破産法が一時的に緩和された国々では、著しく減少しています。
図1 の縦軸で見ると、2021年については、倒産件数の動態には、国によってばらつきがあることがわかります。南西象限に分布する国グループは、財政支援が継続され、おそらくは倒産の抑制策が効果を発揮したことから、倒産の急減(insolvency plunge)が見られます。
最も減少率が高かったのは、ポルトガル、オランダ、韓国、ニュージーランド、米国です。米国における破産申請件数も著しく減少しています。米国の場合は、年初まで利用可能な給与保護プログラム(PPP)や年末まで受けられる新型コロナウイルス対応の経済的損害災害融資(EIDL)などの企業に対する流動性支援措置が要因でしょう。
さらに、資本市場評価が良好であるほか、低金利であるため、債務の借換の際、有利な条件で資金を調達できるようになっています。一方、左上に位置する国々は、2021年にはパンデミックによる倒産件数減少の反転が見られます(つまり、2020 年は減少した後、2021年は倒産件数が増加)。
これは、通常レベルに戻すための調整、さらにゾンビ企業の債務不履行が原因で、すでにオーバーシュートが始まっていると思われます。2021年、倒産件数が最も高かったのは、スペイン、チェコ、イタリアでした。スペインでは、予想に反して景気回復は実現せず、新破産改革法案の効果に疑問が呈されています。
イタリアでは、2021年に倒産件数が増加しましたが、2020年の第3四半期に支払い猶予を設ける「破産モラトリアム法」が廃止されたことが理由でしょう。チェコ共和国では、2021年には財政支援の大部分が段階的に廃止されており、これが倒産件数の増加につながっていると思われます。
図1
出典:アトラディウス・エコノミックリサーチ