政府の財政支援策の終了に伴い、 倒産が増加(下)
2022年と2023年の世界倒産動向見通し
ロシア・ウクライナ紛争は、GDP成長率にマイナス影響をもたらし、倒産予測を大きく左右するものです。この紛争はロシアにとって大きなことであるほか、程度の差こそあれ他の市場でもその影響を感じられるでしょう。
ただし、政府による財政支援策の段階的廃止と比較すると、ロシア・ウクライナ紛争が倒産件数の予測に及ぼす影響は、ロシア本国を除くと、比較的小さいと考えられます。市場の多くは、2022年後半から2023年初頭にかけて、倒産件数が通常の水準をオーバーシュートすると予測されます。
これは、ゾンビ企業による債務不履行が増える結果になりそうです。つまり、パンデミック時の倒産件数の水準がパンデミック発生前より大幅に減少したために起こる現象です。こうした企業は、政府の財政支援が打ち切られた後、債務不履行に陥ると考えています。
2023年末には、倒産件数は通常の水準までフラット化すると見られています。倒産件数予測においては、政府の財政支援の打ち切りのタイミングが非常に重要になってきます。まず、財政支援が廃止されてからの2四半期は、徐々に正常な状態へ回復していくと思われます。
さらに、ゾンビ企業は財政支援が廃止された後、次の4四半期で債務不履行に陥ると想定されています。つまり、財政支援策の廃止が早ければ、2022年に倒産件数の増加が集中し、遅ければ2023年に集中することになります。
2022年と2023年の倒産増加率
図2に、すべての市場の2022年と2023年の倒産増加率を2019年比で2021年の倒産レベルが高かった国順に並べて示しています。一般に、パンデミック前に比べて2021年の倒産件数が低い国の方が、倒産増加率が高いことがわかります。
これらの増加率の高さは、通常の倒産件数の水準調整とゾンビ企業の債務不履行の発生を反映したものです。一般的に、2022年に高い増加率を示した国は2023年の増加率は低くなり、逆に2021年に低かった国は2023年に高くなります。
これは、各国の財政支援の打ち切り時期次第といえます。2022年、最も高い増加率を示したポルトガル、オランダ、シンガポール、ベルギー、オーストリア、米国は、2021年の倒産件数の水準が低く、2021年後半から2022年前半に財政支援が廃止された国でもあります。
2022年は、ロシアでも倒産件数が大幅に増加すると予想されていますが、これは部分的には正常化に向けた調整、またはウクライナ戦争に関連した制裁措置による景気後退が原因だと考えられます。一方、スペイン、チェコ共和国、フィンランド、スイス、ルーマニアの倒産件数の増加率は低いことがわかります。
これは正常化に向けた調整の大半が2021年に実施されたことが原因です。スウェーデンの場合、2021年の水準からの乖離が大きくなく、2022年の増加率は低いと見られます。トルコとブラジルは、2022年の増加率が最も低くなると予測されますが、すでに2020年に政府の財政支援が廃止されているため、パンデミック関連の調整によるものではありません。
その代わり、長期的な動向と比較すると、これらの国々のGDP成長率は悪化すると予測されています。異常な値として目立っていたのは、ニュージーランドと香港です。2022年は両国の倒産件数が減少を示しています。それは、財政支援が2022年末まで延長されることが原因でしょう。
このため、すべての調整が2023年に集中し、市場全体の中で最高の増加率を示しています。韓国、ポーランド、フランス、ノルウェー、オーストラリアについても、2023年の倒産件数の増加率が高いことにも留意しておきたいと思います。同様に、2021年の倒産件数の水準が比較的低く、政府の財政支援の廃止が2022年半ばと、比較的遅いことを反映しています。
その結果、2023年の初頭倒産件数は高い水準となりますが、その後徐々に正常化されます。ですが、同年初頭の倒産件数の高さが通年での倒産件数の水準の高さをけん引することになるでしょう。2023年を過ぎると、倒産件数は再び減少に転じるか、ほぼ一定に保たれる見込みです。
これは、倒産水準がほぼ正常に戻り、財政支援がなければ生き残れないゾンビ企業はすでに淘汰されているからです。今後数年間、企業は、政府の財政支援が受けられない環境に適応していかなければなりません。パンデミック時に多額の負債を抱えた企業にとっては、これは課題になるかもしれません。
以上
図2
出典:アトラディウス・エコノミックリサーチ