OPECプラス、段階的増産から転換探る イラン産を警戒
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は5日、10月の原油生産計画を協議する。2021年年初から継続してきた段階的な増産を打ち止めにし、現状維持とするとの見方が多い。世界の需要鈍化やイラン産原油の国際市場への復帰を警戒し、減産を探る姿勢も見せ始めている。
OPECプラスは月1回のペースで翌月の生産計画を閣僚級で話し合う。9月は合計で日量4395万5千バレルとしており、ロイター通信は2日、今回の協議でこれを据え置くとの見通しを伝えた。据え置きとなれば、20年12月以来となる。
新型コロナウイルス禍からの需要回復に沿って21年から22年8月まで毎月段階的に増産してきた。9月もごく小規模ながら増産を続けた。今回の協議で現状維持と決定されれば、生産計画が転換点に差し掛かったことを意味する。
背景にあるのは世界の景気減速だ。9月に入り米国ではドライブシーズンが終了する。中国でも新型コロナの感染が再び拡大し、一部の都市で都市封鎖(ロックダウン)が実施されるなど経済活動が抑制されつつある。インフレ抑制のための各国中央銀行の積極的な金融引き締めは原油需要を鈍化させかねない。直近でニューヨークの原油先物は1バレル90ドルを下回って推移していた。
国際エネルギー機関(IEA)の8月の月報によると、2022年7~9月の原油需給は日量90万バレルの供給過剰となり、23年後半まで供給過剰が続く見通しだ。供給減が懸念されたロシアはウクライナ侵攻後も原油生産を大きく減らしていない。IEAは8月の月報で、ロシアの生産は侵攻前に比べ日量31万バレルの落ち込みにとどまり「従来予想より減少が限定的になった」と認めた。
主要国は減産も見据える。8月下旬、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相はOPECプラスが「減産を迫られる可能性がある」と米ブルームバーグに指摘し、イラクやクウェートが同調した。先物市場の流動性低下と極端な価格変動を問題視したものだ。
原油価格が軟調のなか、「1バレル80ドルを下回る原油価格水準は産油国の財政を圧迫するため、減産の誘因となりやすい」(ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏)。国際通貨基金(IMF)はサウジの22年の財政収支が均衡する原油価格を79.2ドルと推計する。
サウジのアブドルアジズ氏の発言は、イラン産原油が国際市場に復帰することへの警告でもあったとの見方がある。同氏の発言が飛び出したのは、イラン核合意の再建に向けた交渉が進展する可能性が注目を集めるさなかだった。仮に米国の制裁が解ければイランは原油増産に動き、需給が緩む。IEAによるとイランには日量130万バレルの増産余力がある。世界需要の1%強に当たる。
イラン外務省は核合意再建に向けた米国との間接協議を巡り、2日に意見を再度送ったと発表し「建設的なアプローチだ」と強調した。これに対し米国務省は「建設的ではない」とし、決着には時間がかかる見通しだが、制裁解除の市場への影響は大きい。
イランが老朽化した原油生産設備を修復し、生産を戻すには時間がかかるものの「制裁で販売が滞っていた間に余剰原油を洋上タンカーに大量に蓄積しており、半年程度にわたって日量50万バレル程度を供給できる」と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之氏はみる。
主要7カ国(G7)財務相は2日、ロシア産石油の輸入価格に上限を設定することで合意しており、今後の原油需給を占ううえでロシア産の行方も大きなカギを握る。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は4日、ロシアが現時点で減産を支持していないと伝えた。OPECプラスが減産すれば供給過剰との印象が強まり、市場に原油が潤沢にあるとみた需要家がロシア産を回避することを懸念している。
(カイロ=久門武史、コモディティーエディター 浜美佐)
出典:日本経済新聞