浅い後退か大不況か、世界経済の「最悪シナリオ」、23年は異変の大波が実体経済に押し寄せる番だ
米欧を中心に歴史的な高インフレが続く世界経済。来る2023年はいよいよ景気後退へ突入するとの見
方が圧倒的多数だ。 【図解】変化の起点はインフレ動向、一目でわかる世界経済のベスト・ワーストシ
ナリオ もはや、その争点は不景気の谷がどれだけ深いかに移行している。一足早く2022年に大変化
が起きた株価や金利、為替に続き、実体経済の激変が待ち受ける。
■経済常識は反転した 混迷を極める世界はどこへ向かうのか。
12月19日発売の『週刊東洋経済』12月24-31日号では「2023年大予測」を特集。世界と日本の政治・経
済から、産業・業界、スポーツ・エンタメまで108のテーマについて、今後の展開とベスト・ワーストシナリ
オを徹底解説する。
「よいニュースは悪いニュース」──。2022年の金融市場ではやった格言といえば、これだろう。 従
来なら株価にとってプラスだった好調な経済統計は、高インフレの下ではネガティブな材料に転じた。
供給制約がある中での景気(総需要)の拡大はインフレの高進に直結し、中央銀行は利上げ(金融引き
締め)を加速せざるをえなくなる。 結果、金融マーケットに循環するマネーは縮小し、設備投資や住宅
市場の冷え込みなどを通じて景気も悪化に向かう。こうした予想を先取りして動いた株式市場では
2022年、利上げの本格化とともに相場は下落に転じた。
2023年は、この大波が実体経済に押し寄せてくる番だ。そのシナリオはベストとワースト、大きく2つに
分けられる。 ベストシナリオは、金融引き締めが奏功し、高インフレが早めに沈静化するケースだ。こ
の場合、利上げの停止や利下げ転換はそれだけ早まるから、景気後退の谷は浅くて済む。 具体的
なインフレ想定は次のようなものだ。
■景気後退に合わせて利下げに転じる見立て 2023年の世界
経済を大きく左右するアメリカの消費者物価指数(CPI)の伸び率は住居費の上昇のピークアウトなどに
よって、足元の前年比7%台から2023年春以降は大きく減速。
一時的な経済のマイナス成長とともに年末にはFRB(米連邦準備制度理事会)が目標とする2%に接近
していく(厳密にはFRBが参照するのはPCE価格指数)。 それに伴い、FRBは2023年春以降には利
上げを停止し、年後半からは景気後退に合わせて利下げに転じるという見立てになっている。 先述
のように、金融マーケットは金融政策や実体経済の予想を先取りして動くため、インフレの沈静化や利
上げ停止が明確になった段階で、株価は本格的な回復に向かっているだろう。
ちなみに、現在多くの国際機関や民間エコノミストは、このベストシナリオのような経済のソフトランデ
ィング(軟着陸)を2023年のメインシナリオに据えている。 2023年の経済成長率としては、アメリカは複
数の四半期でマイナス成長となる可能性があるものの、年間を通せば1%成長を確保。それ以外では
地域によってばらつきがあるものの、世界全体の成長率は2.7%程度への減速にとどまる見通しだ。
ワーストシナリオは、インフレが高止まりするケースだ。
■スタグフレーション再来の悪夢
このケースでは、FRBは利上げや高い金利水準を維持して一段と景気を潰すことに邁進せざるをえな
くなる。その分、景気後退の谷は深くなり、世界は不況の様相を呈するだろう。 また万一、景気後退
が進んでも高インフレが収まらなければどうなるか。FRBは不況下でも高金利政策を続ける必要があ
り、1970年代のようなスタグフレーション(景気停滞とインフレの共存)という悪夢が再来する。
実際、インフレが高止まりするリスクは山積している。次回記事(12月20日配信予定)はそれらのリスク
や、近年まれに見る変動を見せてきた金利と為替についても触れていきたい。
出典:野村 明弘 :東洋経済 解説部コラムニスト 2022/12/19
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