国際通貨基金(IMF)は3日発表した中国経済の年次報告で、不動産危機への懸念を示した。国内総生産(GDP)の最大3割を占める不動産業の低迷が続けば消費など総需要が落ち込み、金融リスクを誘発しかねないと分析。「危機終息へ国家レベルの追加措置が必要」と指摘し、開発企業の再編を急ぐべきだと警鐘を鳴らした。
中国の経済や財政は不動産への依存度が高い。丸紅中国の鈴木貴元氏は「不動産用の鉄鋼需要は全体の3割に達する」と指摘する。地方政府が開発企業に売り出す土地使用権の収入は地方税収を上回る。
中国の不動産業は政府の金融規制で資金繰りが悪化した。工事の中断で竣工が遅れる物件が続出し、購入者が抗議のため住宅ローンの返済を拒否する動きも広がった。
政府は早期竣工を促す対策を打ったが、IMFは「不動産危機はなお続いており、大規模な業界再編が必要だ」と強調した。再編により開発企業の信用を回復し、住宅の予約販売に対する消費者の不安を取り除くことが取引の正常化に不可欠との認識を示した。
2023年の中国の実質経済成長率は5.2%と予測した。22年10月の前回予測から0.8ポイント引き上げた。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終わり、経済活動が正常化すると見込んだ。
ただ先行きの見通しは下振れリスクが上振れを上回るとみる。ウクライナ問題の激化やエネルギー価格の上昇のほか、米中対立で中国企業の米国での上場廃止など金融のデカップリング(分断)圧力が強まることをリスク要因として挙げた。中国の新型コロナの感染動向も懸念材料の一つだ。
経済財政の構造改革にも注文を付けた。インフラ投資に偏っていた財政支出を巡り、家計支援の比重を高めるよう求めた。「新型コロナの打撃が大きい地域の家計への給付を実施すべきだ」と指摘した。
社会保障システムの充実も提起した。家計の将来不安を和らげ、貯蓄を消費に振り向けやすくすれば、投資に偏った経済構造の転換に役立つとの見方だ。国有企業と民間企業における公平な競争環境も必要だとした。生産性が低い国有企業への依存を高めると、先進国との間で生産性の格差が広がりかねないと懸念を示した。(川手伊織)