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中国、不動産対策にジレンマ(The Economist)

黄海に臨む中国山東省の小さな街、海陽の海岸沿いには高層ビルが点在する。その様子を見る限り、中国で販売額1位の不動産デベロッパー、碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)の前途は多難なようだ。

中国南部の広西チワン族自治区桂林に立つ未完成のマンション=ロイター

ビーチに面したマンションはほとんど売れていない。タワーのいくつかは建設途中で止まってしまったようにみえる。とんがり屋根が特徴的なドイツ風の商業施設は店舗やレストラン向けのおしゃれな空間だが、テナントはほとんど入っていない。碧桂園は2022年上期の利益が急減し、住宅販売の不振ぶりが明らかになった。

苦境に立たされている中国のデベロッパーは碧桂園だけではない。22年に中国全土で販売された不動産は床面積ベースで24%減少し、データの集計を開始した1992年以来最大の落ち込みとなった。不動産投資額も前年比マイナス10%で、初の減少を記録した。国際的な債務不履行問題も解決のメドが立たない。

世界で最も多額の債務を抱える中国恒大集団は21年に債務不履行に陥って経営再建中だが、22年7月までに取りまとめるはずだった再建計画を示していない。1月16日には監査法人のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が辞任した。中国の国内総生産(GDP)は約5分の1を不動産関連が占めるだけに、不動産市場の低迷は中国経済に壊滅的な打撃を与えた。

転換する政策、不動産規制を緩和

中国政府は現在、政策の大転換を進めている。新型コロナウイルスの感染を抑え込む「ゼロコロナ政策」を撤廃するとともに、テック業界に対する締め付けも緩和に転じる兆しを見せている。不動産業界の救済にも着手しようとしている。

2年間にわたって厳しい財務指針のもと不動産企業に負債比率の引き下げを強制した結果、多数の企業が債務不履行に陥った。現在は、業況を改善しようとこうした規制の多くを撤廃する政策転換に乗り出している。その結果、業界の展望は改善している。海陽の街並みはすさんでいるが、碧桂園の株価は10月から3倍に躍進した。

改革の具体的な中身は明確ではない。13日に中国政府関係者が示した21項目から成る計画案は「優良な」不動産企業に十分な資金を供給することが目的としている。しかし、肝心の「優良」企業と「優良でない」企業をどう区別するかについて、明確な基準は示されていない。

計画案では政府系金融機関が中断したプロジェクトに資金提供したり、国有の金融資産管理会社がM&A(合併・買収)に必要な融資を実行したりすることを強く求めている。民間の銀行は不動産向け融資から撤退していたが、信頼性の高い不動産企業には融資を再開するよう指示が出された。国営メディアは負債額に厳しい上限などを設けた財務指針「3つのレッドライン」の数値目標が30社について緩和される見通しと報じた(30社の社名は明かされていない)。

中国の不動産企業は12月に借り入れを急速に増やしており、政府が直近の計画を発表する前から緩和措置が始まっていたことがうかがわれる。地方自治体は住宅ローン金利を引き下げており、過去最低水準に達するケースも多い。未完成の建設プロジェクトを対象に国の救済基金も整備されている。

中国では13〜20年に販売された住宅が、かなりな割合で引き渡されていないとみられているが、購入者の多くはローン返済を開始している。資金がなければ、工事途中の建物が完成することはない。この状況で、新規購入をためらう人は多い。

厄介な債務不履行が増える事態は中国政府も避けたいところだ。碧桂園が17日の社債の償還期限をぎりぎりのところで切り抜けられたのは、地方自治体の支援があったためだ。だが、こうした支援措置は、現状では碧桂園のように主要な大企業しか受けられない。金融情報会社リフィニティブによると、今年中に償還期限を迎える中国不動産企業の米ドル建てオフショア社債は9500億元(約18兆円)で、昨年の8100億元を上回る。

早くも現れる効果

今回の政策転換は早くも一定の効果を現している。22年12月の中国の住宅完工件数は前年同月比マイナス6%で、11月のマイナス18%から減少幅が縮小した。この指標は注目すべきだ。昨年は、住宅の完成が滞っていることに抗議する購入者たちがローンの返済をボイコットする事態になった。

コロナ関連の行動制限が撤廃されたことも追い風になる。ゼロコロナ政策が終わる直前までは(例えば不動産物件を見るために)中国国内を移動すると隔離されて帰れなくなるリスクがあった。中国のコンサルタント、ベイク・リサーチインスティテュートの暫定的なデータによると、1月1〜10日の中国の大都市50カ所の中古住宅販売額は前月の同時期に比べ5分の1以上増加した可能性があるという。

21年に債務不履行に陥ったデベロッパーの佳兆業集団は外国の投資家との再編協議を避けており、債権者との合意のメドが立っていない。それでも同社の住宅に対する需要は上向いているようだ。

米調査会社クレジットサイツは最近上海のプロジェクトを視察した際に代理店が以前のように値引きを申し出ることがなくなったという。値引きがないことは立地条件のよい不動産の需要が増え始めていることを示唆する。

だが、中国政府の政策転換に意を強くする外国の投資家は少ない。多くの資産運用会社やヘッジファンドが中国の不動産企業の不払いで被った損失を取り戻そうとしている。中国の不動産企業はオフショア債券市場から実質的に締め出されてきた。

中国デベロッパーによる資金調達は昨年、前年から4分の1ほど減った。ところが、1月12日に不動産大手の大連万達集団(ワンダ・グループ)が総額4億ドルのドル建ての低格付け社債を発行した。中国不動産企業による新規発行は1年以上ぶりで、今年、大手デベロッパー関連のグループがドル建てオフショア社債市場に復帰する先駆けになるかもしれない。金融調査会社リオルグによると、米資産運用大手のフィデリティとブラックロックがワンダの社債を購入した。

供給過剰が再燃するリスク

米銀モルガン・スタンレーは今回の改革は住宅市場の安定化につながり、今年4〜6月期には住宅販売額が若干回復する可能性があると予想する。中国政府の狙いに沿ったかたちだ。だが、政策の遂行にあたる政府の舵(かじ)取りは難しい。

資金が過剰になれば供給過多の問題が再燃しかねない。しかも今は中国の人口が減少し始めている状況だ。米銀JPモルガン・チェースによると、中国の都市部の空室率は大都市で7%、中堅都市で12%と世界平均を大きく上回る。また、18年以降販売された住宅の約70%が既に1件ないしそれ以上の不動産を所有する人が購入した。

中国の住宅価格は投機で値上がりし、住宅年収倍率(住宅を購入するのに必要な所得を得るまでの年数)が世界で最も高くなっている。中国の資産運用会社グロー・インベストメント・グループの洪灝(ホン・ハオ)チーフエコノミストは3つのレッドライン政策には少なくともデベロッパーが負債を増やすペースを鈍化させる効果があったと指摘する。

強行策が中国経済に大きな問題をもたらしたのは事実だが、それがなければ「状況はもっとひどくなっていただろう」と洪氏は言う。中国政府が業界の救済のために過剰な資金を注ぎ込むことになればまた供給が過剰になり、海岸にはより多くの空室が並ぶことだろう。

(c) 2023 The Economist Newspaper Limited. January 28, 2023 All rights reserved.

出典:日本経済新聞

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