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景気後退は世界経済強化の好機(The Economist)

通常、世界にリセッション(景気後退)がやってくるなどと予測することは、ごく一部の少数派による多数派への異論と捉えられる。だが今回は、世界経済が今や景気後退に陥るのを避けられるとみる方が圧倒的少数派だ。

欧州では、ロシアからの天然ガス供給削減を受けガスが不足している。中国は新型コロナウイルスの感染を封じ込める「ゼロコロナ」政策によるロックダウン(都市封鎖)を繰り返しているため経済成長が急減速しており、同国の脆弱な不動産市場への懸念が高まっている。

米国はテクニカルリセッション入りしたが

雲行きがあまりに怪しいため、すでに景気後退入りしたのかと問う投資家も多い(編集注、米国は7月28日に発表した4~6月期の実質国内総生産=GDP、季節調整済み、速報値=が前期比の年率換算で0.9%減り、2四半期連続でマイナスになったことから「テクニカルリセッション」に入った)。

実際に景気後退に入ったのか、これは容易に答えられる問いではない。

確かに新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によって、様々な経済指標は大幅に悪化した。インフレが進み、消費者心理を冷え込ませた。だが経済全体の状況はともかく、消費者に懐具合を問うと、彼らの口調は格段に明るい。

米国のGDP伸び率は失望を招いたが、生産高を示すほかの指標や上昇を続けている賃金とはかみ合わない。確かに製造業を対象とする調査ではパンデミック初期以来の弱い結果が出ている(編集注、7月の米購買担当者景気指数は好不況の分かれ目となる50を下回り、米サプライマネジメント協会が7月1日に発表した6月の米製造業景況感指数も、2年ぶりの低水準となった)。

だがこれは新型コロナ感染拡大の最悪期を脱した後に消費者が消費パターンを見直しているためかもしれない(家庭用フィットネス機器の売れ行きは鈍化しているが、空港には長蛇の列ができている)。

中国の景気減速すら、わずかとはいえ欧州にはプラスになるかもしれない。液化天然ガス(LNG)の世界需要を押し下げる可能性があるからだ。

世界各国の経済がすでに縮小しているかどうかはともかく、今後1年の間に各国の金融引き締めが進むことによる経済への打撃と、欧州がエネルギー不足問題を抱えたまま厳しい冬に突入する中、どうしたら景気後退を回避できるのか、その方法をみつけるのは難しい。

金利上昇もエネルギー危機も世界経済を強くする

ただ、金利上昇もエネルギー危機の発生もプラスの面がある。それは長期的に世界経済を強くするというよい影響をもたらす。

景気後退に陥ると、多額の負債を抱えた世帯が支出を抑えたり、金融システムに脆弱な部分があると、そこを通じてデフォルト(債務不履行)が相次いだりして事態がさらに深刻になる場合がある。だが、バブルの様相を見せていたカナダの住宅市場といった少数の例外を除けば、主要先進国の経済にそうしたもろさは現在ほとんどみられない。むしろ、家計も企業も財務状況は良好のようだ。

米国の最貧層の預金残高は2019年の水準を約70%上回っている。米国が利上げ局面に入ると新興国の金融危機が危惧されるのが常だが、それもかつてとは様相が異なる。新興国の債務がドル建てから現地通貨建てに移っていることが一因だ。

世界経済の今の最大の問題はインフレだ。幸いインフレの進行は始まってまだそれほど時間はたっていない。FRBが前回、劇的な大幅な利上げに動いた1980年代初期は、物価がそれまでの10年間で2倍以上に跳ね上がっていた。現在のインフレ率はまだ29%だ。これはインフレが2021年に始まったばかりだからだ。

欧州経済にはクリーンエネルギー転換の好機

米経済は著しく過熱しているが、長期的なインフレ見通しは今も穏やかな水準を維持している。歴史的に見て最も近いのは、景気後退と物価上昇が同時に進むスタグフレーションとの闘いが長期化した1970年代ではなく、第2次世界大戦後の大混乱下で消費者物価が高騰した時期だろう。当時インフレを収束させた景気後退は浅く、従って爪痕をほとんど残さなかった。

今回も穏やかな景気後退によってインフレを収束させられるはずだ。市場はすでに米物価上昇率が向こう1年の間に、今の半分以下の3.8%ほどに下がると見込んでいる。

米国を別にすると、インフレの主因は世界的な食品とエネルギーの価格急騰とサプライチェーン(供給網)の混乱に伴う輸入価格の上昇だ。一部の供給逼迫はすでに和らいでおり、小麦の価格は5月に付けた直近最高値から40%近く下がっている。石油価格もこのところ低下しており、サプライチェーンは回復しつつある。

だが残念ながら、欧州のガス不足は深刻の度合いを深めている。欧州各国の政府はガス不足による一般世帯への影響を最小限に抑えようと最善を尽くしているが、使用制限が必要になれば、産業界の生産ひいてはGDPが縮小する。特にドイツなど、ガス不足の影響を受けやすい国々では大幅な縮小となるだろう。しかも生産が縮小しても、インフレは一段と加速していく。

しかし、米国のインフレ問題が景気後退によって一掃されるはずであるように、欧州も景気後退を克服するときにはエネルギー供給に対する長年の危機感のなさから脱却できているかもしれない。欧州の政策決定者らは遅まきながら、注意を十分払いながらクリーンエネルギーへの移行を進めれば、今の独裁諸国に対するエネルギー依存の軽減にもなると気づいた。

世界中で今、再生可能エネルギーへの投資が急拡大している。従来は原子力発電に懐疑的だった国々も、低炭素エネルギーの供給網構築に欠かせないとして原発に反対する姿勢を見直している。2011年に福島第1原子力発電所の事故を経験した日本ですら、原子力発電所をもっと再稼働させようとしている。

世界がきたるべき景気後退を乗り越えてインフレを抑え込み、よりクリーンでより確実なエネルギー供給の確保を実現できるようになれば、景気後退という痛みを経験することに意味があったということになる。

(c) 2022 The Economist Newspaper Limited. July 30, 2022 All rights reserved.

出典:日本経済新聞

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