グリーン産業をめぐる米中覇権争いのはざまで、欧州連合(EU)が地盤沈下の不安に直面している。電気自動車(EV)では、中国が輸出や投資でEU市場に猛攻。米国は昨年成立したインフレ抑制法で巨額の補助金を投入し、欧州企業を次々と吸い寄せる。EUは23、24日の首脳会議で対抗策を協議したが、目下足並みはそろっていない。
■進出ラッシュ警戒
ドイツやハンガリーでは、EV産業で中国企業の進出ラッシュが続く。
世界最大の車載電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)は昨年、ドイツ中部で欧州第1号となる工場の稼働を開始した。近隣のハンガリーにも巨大工場を建設すると発表した。投資額は73億ユーロ(約1兆円)。ドイツなど欧州自動車大手への供給を目指す
EUでは対中警戒が高まり、中国からの投資は2016年をピークに減少したが、自動車関連は別。特に親中政策を進めるハンガリーには、比亜迪(BYD)など中国のEV大手が相次いで工場を設置した。
仏調査機関によると、欧州のEV市場で中国勢のシェアは昨年6%だったが、30年には最大20%に達する見込み。欧州のEV価格は平均約5万ユーロ(約700万円)以上するのに対し、中国車は製造コストが1万ユーロ程度安いという。長く国家補助金に支えられた中国勢は価格に加え、技術競争でも欧州勢を脅かす。
■巨額補助金で流出
守勢のEUに追い打ちをかけたのは、バイデン米政権が打ち出したインフレ抑制法だった
北米で最終組み立てするEVについて、税額控除などの形で補助金を支給する内容だ。 欧州からは同法が呼び水となって、企業の米国傾斜が著しい。ドイツの自動車大手、フォルクスワーゲン(VW)は今月、カナダにEV電池工場を建設すると発表した。
サウスカロライナ州にもEV工場を開設する。いずれも同法が定める優遇措置の対象になる。VWが東欧に予定していた工場新設は保留にされた。 仏シトロエンなどを擁するステランティスも2月、米インディアナ州への投資計画を発表。EV電池のスウェーデン大手、ノースボルトもドイツへの工場計画より、米国進出を優先する構えを示唆した。
ブリュッセルの環境NGO「T&E」は、欧州でEV電池生産計画の3分の2が中止、または遅延される恐れがあると指摘。「EUは米中対立の火花を浴びている。手を打たねば、最大の『負け組』になる」と警告した。
■対抗策合意できず
EUは企業流出に危機感を抱き、米国にインフレ抑制法見直しを求めた。だが、グランホルム米エネルギー長官は「あなた方も同じことをすればよい」と発言。法見直しどころか、EUに追随を促した。同法には、グリーン産業の供給網で「中国外し」の狙いがあるためだ。
欧州委員会は米国への対抗措置として、EU加盟国がグリーン産業を支援できるよう国家補助金に対する規制緩和を提案した。さらに、EUレベルでの補助金投入を可能にするため、新たな基金設立計画も浮上し、フランスが後押ししている。
だが、EU首脳会議では、アイルランドやエストニアが「大国の企業だけが優遇され、小国の企業が不利益を被る」と懸念を示し、補助金問題で合意に至らなかった。
(パリ 三井美奈)