経済都市香港の価値がどんどんなくなっていく懸念
はじめに
家賃が月2260万円。販売価格1億7000万円の駐車スペース。香港のメディアによると香港島の高台にある高級住宅地の山頂のピークの不動産が次々に史上最高値を更新しています。
新香港人?
背景に贅沢な中国マネーの流入があって不動産の仲介を心がけている美聯物業の分析では1月から4月に1億香港ドル以上の住宅の購入をした人の39%が「新香港人」と呼ばれる中国の本土出身者の方で占められています。不動産サービス大手のJILの黄志輝氏も「本土企業の進出が増え、高級住宅の需要が押し上げられている」という指摘もあります。
金融市場は穏やか
2019年の大規模デモ・20年の香港国家安全維持法(国安法)施行を経て、社会が激変する中で、香港の金融市場は平静を保っています。同法の施行前に比較して預金の残高は6%増、株価のハンセン指数は2割近く上昇しています。香港ドルの対米ドル相場も定められた取引の変動幅の上限近くで推移しています。
新規株式公開(IPO)調達額も堅調に
大手会計事務所のデロイトによると、1月から6月の新規株式公開(IPO)の調達額は2097億ドルと前年同期の2.4倍となっています。香港取引所は特別買収目的会社(SPAC)を除くペースでアメリカのナスダック、ニューヨークの証券取引所に次いでの世界3位となっています。
また中国では今年に入っても動画投稿アプリの快手科技・京東物流、検索大手の百度などの中国企業の大型上場が相次いでいます。IPOの調達額に占める本土の企業割合は96%に達しています。HSBCやシティグループなどの欧米の主要金融機関は中国でのビジネス市場を睨んで香港でも採用の拡大に動いています。「自由なくして金融なし」と撤退を示唆したSBIホールディングスも現地法人が撤退をしない方向で進んでいるという向きもあります。
GDPの中国全体に占める香港の比率は大きく減少
中国の国内総生産(GDP)に対しての香港の比率は返還前の19%から2%台まで下がっています。香港では広東語を母語としている方が多く外国語はまず英語を学んでいきます。不動産大手の陳会長は「英語よりも普通話の教育に力を入れるべきとしています。
国際都市の看板が色あせて「中国の一都市」になってしまうことで、本土流の統制も持ち込まれます。香港政府は今月公認会計士の資格を認定する権限を業界団体から公的機関に移していくと突如提案してきました。民主派よりの業界団体の力をそぐ狙いがあるという指摘もあります。
多くの職員のビザが更新されない
香港にある台湾の出先機関には、香港政府の台湾人職員のビザ更新の条件として(中国大陸と台湾は1つの国に属するとする)「1つの中国」を支持する契約書に署名を求めていきます。多くの職員のビザが更新されずに7月にも運営が停止する恐れも出てきました。香港と台湾のビジネスの往来にも支障が出かねません。
一部の中国人は「中国も豊かになったのになぜ香港だけが自由なのか?」という微妙な感情もあるようです。旅行で訪れて「香港人に冷たくされた」と感じている人も少なくありません。国際社会が指弾する香港の統制の強化は中国本土では驚くほど支持されています。
香港と戦うというパフォーマンス
習近平の指導からすると、香港の民主派などの「外敵」と戦う姿を国内に見せていくことで愛国心を強調できて求心力も高まります。コンサルティング会社A2グローバルリスクは「共産党があおる反外国企業のリスクを高めている」と警告しています。
立教大学の倉田教授は「かつての中国に資本主義を見せていくショーウインドーと呼ばれた香港は世界に中国式の統治を示していく場所になった」と話しています。香港はわずか1年で政治・経済・社会のすべてが中国色に染まっていきました。
政治と経済は切り離せない
政治と経済は決して切り離すことができません。国安法は中国の本土と香港の厳しい現実を企業に突きつけています。
参考資料・出典
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM183PN0Y1A610C2000000/