新型コロナウイルスの爪痕と政治的対立:岐路に立つアジアの貿易(下)
◎今後の展望
新型コロナウイルスのパンデミックの爪痕は深く、米中貿易戦争は長引く様相を見せています。短期的に見ると、アジア貿易の展望は良好ですが、こうしたマイナス要因は2023年以降の見通しに影響を及ぼしています。ロックダウンによるサプライチェーンの混乱は、アジアの輸出の回復を妨げる要因にはなりませんでしたが、異常なまでの急激な回復により、輸送関連のボトルネックが深刻化しています。世界の主要な港で海運の渋滞が発生しているだけでなく、半導体の供給不足や一部の国で新たに規制が強化された結果、工業製品を中心に世界貿易の伸びは鈍くなっています。しかし、実質的にはボトルネックは一時的なものなので、今年の後半には解消され始める可能性があります。
IMFが最近発表した「世界経済見通し」によると、2022 年末までに世界的にパン デミックが終息したと仮定した場合、2024 年の世界生産量はパン デミック発生以前の予測よりも約3%低くなるだろうと予測されています。先進国では、巨額財政支援政策により、平均で約0.75ポイントの成長率の低下に留まると見込まれるのに対し、新興市場国では平均で約4.25ポイント(低所得国ではさらに6ポイント以上)のマイナスとなります。
2025年のGDPの予測を昨年までの予測と比較してみると、インド、フィリピン、インドネシアの損失(後遺症)が最も大きいのに対し、ベトナムの場合は、パンデミック以前の予測よりも高くなると見られています。インドとフィリピンについては、両国とも財政支援対策が不十分であるほか、投資の急減と失業率の上昇により大きな損失を経験しています。インドネシアの場合も、財政支援対策が貧弱であることが損失の要因と言えます。
新型コロナウイルスの感染拡大による経済的な後遺症を挙げるとするなら、世界中で必要物資が不足するという混乱が生じたことで、 企業がサプライチェーンを再考・再設計を始めたことでしょう。パンデミックは、米中貿易戦争で始まったオンショアリング(自国内のみで事業を行うこと)の流れを加速することになります。
しかし、世界の二大経済圏が完全に分断されるとは考えにくいでしょう。現在、米国と中国の経済は相互に強く依存しており、両者が完全に分断された場合、両国だけ でなく、世界経済に多大な損失を与えることになります。
アジアの経済成長と貿易の展望は明るいと言えます。サプライ チェーンの混乱の影響は緩和され、景気回復は再び勢いを増すと思われます。経済的な後遺症が半永久的な損失をもたらしたものの、今後数年間は力強いGDP成長が見込めます。
しかし、長期的な貿易展望で見ると、長引く貿易戦争によって先行きは不透明です。各国政府が協調を選択するのか、あるいは対立を選択するかによって、アジア地域内外における今後の貿易パターンは大きな 影響を受けると考えられます。
こんな中、11月15日内閣府より公表された2021年1~9期の国内総生産(GDP)は2四半期ぶりのマイナス成長で、年率換算では3.0%減と市場予測を上回る減少幅でした。マイナスの最大の要因は個人消費の低迷ですが、自動車の減産も個人消費や企業の設備投資に悪影響を及ぼしました。
足元の10~12月の年率5%前後の高い成長率を予測する声が多いですがまだ不透明な状況です。今後発表される政府の緊急経済対策の中身が期待されます。
以上
出典:アトラディウス 地域レポート(アジア版)