Researcher report
研究員レポート
倒産要因と粉飾決算
いろいろある倒産原因
倒産要因にはいろいろありますが、どのような要因があるのか、見ていきたいと思います。まず、倒産要因には企業外の経済・金融・社会環境の変化による外部要因と企業自体が持つ内部要因があります。
倒産の要因として最も多いのが、①販売不振です。販売不振の原因を見る場合は、それが販売単価の下落によるものか、販売数量の下落によるものか分析しなくてはなりません。下落に至った理由は取扱商品の市場不適合化、強力なライバル企業の出現、デジタル化対応の遅れなど、さまざまです。その次が②赤字の累積で、販売不振などの外部要因だけでなく、借入過多による金利負担増加など企業内部要因もあります。さらに③売掛金回収困難があり、これも営業環境の悪化の外部要因だけでなく、営業政策の失敗、売掛金管理の不備などの内部要因があります。以上三つの要因を一般的に不況型倒産要因と言われています。
中小企業の倒産原因
中小企業の倒産要因として多いのが④過小資本で、資金調達難から資金繰りが悪化するケースが多くみられます。内部要因として多いのが、➄放漫経営で、多角化経営の失敗、子会社・関連会社への資金流出、融通手形操作などがあげられます。その他要因としては⑥信用力低下があります。仕入先などから支払振り悪化、支払手形延長などの信用不安情報が流れ、仕入困難、金融機関からの借入困難により倒産するケースです。⑦在庫状況悪化による、資金繰り悪化での倒産、⑧設備投資過大に伴う金利負担増加による倒産など、倒産要因はいろいろあり、1つだけが要因でなく、いくつかの要因が絡み合って、倒産に至るケースが多くあります。
最新の情報を取得すること
これら倒産要因を的確に把握する為には、その企業の取扱商品の知識、業界における地位、社会・経済・金融環境との関連、関連企業との力関係など、常に最新の情報を把握する必要があります。その為には外部企業信用調査会社の「信用調査書」などを入手し、正確な情報を入手するのも有効な手段でしょう。そして一番大事なのは営業を通じての現場の生の情報、並びに経営責任者である社長、トップ・マネジメントから企業の経営方針につき最新の情報を取ることでしょう。すなわち企業の人(経営者・従業員など)、物(営業活動)、金(財務状況)の実態を把握することが重要です。
倒産にはシグナルがある
以上述べてきた様々な要因により、企業は倒産していくのですが、企業が突然死することはまずなく、必ず倒産前に何らかのシグナルがあるものです。その為には取引先企業を訪問し、企業の雰囲気、従業員の対応など些細な情報から倒産企業を見分ける目を持つようにすることが大切です。
まず第一歩として、企業の信用不安情報を得たら、取引先企業に対する与信の見直しを検討すべきでしょう。第二段階として、財務状況が悪化してくると、粉飾の兆候が出てきますので、実際の在庫状況、受注状況等を注意深く見ていく必要があります。最終段階になるとリストラ策など打ち出してきますので、商品の引き上げ、債権保全策などを図っていくべきでしょう。
企業の倒産は業績の悪化から生じ、金融機関からの借入困難、仕入先からの仕入困難などにより、資金繰りが行き詰ります。業績の悪化は簡単に分かるケースと粉飾により分らないケースがあります。粉飾には利益の過大表示と過小表示がありますが、大方の粉飾決算は過大表示です。具体的には、売上高の水増し、費用の先送りなどによる過小表示などの資産の水増し、負債の過小評価により利益を水増しするものです。
粉飾の3つのケースとその注意点
粉飾で注意すべき点は、粉飾は変動の大きい科目の操作により行われることです。従い、資産では売上債権、棚卸資産、負債では仕入債務、短期借入金などは他の決算科目との整合性が合っているか、また現場の実際の在庫状況などをチェックすべきでしょう。
次に粉飾はどのようにして行われていくのでしょうか。基本的に三つの段階があると言われ、第一段階は会計処理手続きの変更で、①減価償却方法の定率法から定額法への変更、②期末棚卸資産評価方法を物価上昇時に後入先出法から先入先出法への変更、③売上計上基準の変更、④発生主義、現金主義の変更、➄資本的支出を費用で落とす、などです。第二段階は収益や費用として計上すべき時期をその期の損益の動向を見て調整し,次の期との間で平準化する計上時期の操作です。第三段階は架空取引の計上で実際の取引金額の水増しを行うものです。取引実績のない架空取引内容の表示で、ここまでくると財務諸表からの発見することは困難になってきます。
粉飾の見破り方
これらの粉飾は一定の法則はありませんが、一定の傾向があり、粉飾の発見方法としては、従来から①法人税確定申告書(監査報告書)のチェック、②企業の異常現象を見つける、③継続取引を通じた取引情報と決算書類の整合性チェック、そして④財務諸表の分析などが代表的なものです。
よく粉飾決算をする会社は決算書を税務署提出用、金融機関提出用、取引先提出用と三つ揃えると言われており、多角的な観点から決算書を分析する必要があると思われます。財務諸表を分析する方法は、定量分析としての比率分析、期間分析などいろいろな分析手法が確立されていますので、それらを駆逐し、企業の問題点を探していくことが重要でしょう。しかし、先ほど述べました通り、企業の人、物、金の動きを決算書や調査書の数字からだけで分析するのではなく、一番大切なことは現場の実態を把握することだと思います。
以上
参照文献:岩渕真一著「事例に学ぶ倒産予知の勘所」社団法人金融財政事情研究会発行