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研究員レポート

海外取引の与信管理について(2)〜カントリーリスクの見方について

カントリーリスクとは

カントリーリスクとは、取引相手国の「経済情勢」や「政治・社会情勢」の変化により、債権の回収に支障が生じるリスクをいいます。

カントリーリスクの恐ろしいところは、国家規模で起こるため、その国の所在の全取引先向けの債権回収に支障が生じる点にあります。更に恐ろしいのは、カントリーリスクは連鎖することです。1974年タイで発生した通貨危機が、あっという間にアジア諸国に連鎖したことは、記憶にあるでしょう。

では、カントリーリスクの発現は予測できるのでしょうか? カントリーリスクが発現するかどうかは、その国に体力があるかどうか分析することにより、ある程度予測することが出来ます。どのように分析するか、見ていきたいと思います。

カントリーリスクの分析方法

カントーリスクについては、格付会社や保険会社等が評価指標を出しています。それを見ていきたいと思います。

(1)カントリーリスク評価指標

①格付機関の格付

世界ではS&P, Moody’sやFitchが有名です。日本では日本格付研究所(JCR)や格付投資情報センター(R&I)などがあります。評価の基本的目的は「その国が発行している債権=国債が安全かどうか」で、国債を発行していない国は対象外です。

②貿易保険会社のカントリーリスク評価

世界ではAtradius, Euller Hermes, Cofaceなどの外資系保険会社が、日本では日本貿易保険(NEXI)がカントリーリスク評価を公表しています。
こうした保険会社は国の政治・経済分析に加え、保険金の支払状況も重要な要素として評価しています。ほぼすべての国が評価対象となっています。

③クレジットデフォルトスワップ(CDS)

クレジットデフォルトスワップとは、国や企業が発行している債権の債務不履行リスクのヘッジ手段として売買される金融商品で、レートをチェックすることでリスクの変化が分かります。レートが上がるとカントリーリスクは高まります。

④為替レート

カントリーリスクの指標ではありませんが、為替相場はその国の経済状況を如実に反映します。原則その国が不安定なると、その国の通貨は売られますが、為替相場決定は、いろいろな要素が絡みますので、注意して見る必要があります。

(2)カントリーリスクを予兆する経済指標

カントリーリスクには、「経済情勢」によるものと「政治・社会情勢」によるものがあります。国の「経済指標」をみることで、ある程度カントリーリスクを予兆することが可能です。では、その中身を見ていきたいと思います。

(3)経済情勢によるカントリーリスクの兆候を示す経済指標

重要な3つの指標をみて見たいと思います。

格付ごとに定めた取引条件、取引限度を設定しておき、これをベースに取引先と交渉します。
交渉がまとまれば、契約を締結しますが、取引条件が合わない場合には、リスクヘッジ手段の導入を検討することになります。

①経常収支

経常収支は「貿易収支+サービス収支+第一次所得収支+第二次所得収支」で計算され、外貨を稼ぐ力を示します。経常収支の赤字が続くと外貨が流出する為、通貨が売られやすくなり、危険な兆候といえます。

②短期対外債務

対外債務は海外からの借り入れなどの債務で、1年以内に返済期限が来るものが短期対外債務です。外貨準備高と比較して、短期対外債務の方が大きいとリスクがあるとされています。

③外貨準備高

外貨準備高は各国の政府や中央銀行が保有しているグロ-バルな決済にできる資金のことです。一般的に外貨準備高が月間輸入額の3カ月分を切る状況にあると危険といわれています。
しかし、米ドル、ユーロ、円などのようにグロ-バルな決済に利用できる国は、自国通貨での輸入支払いができるため、外貨準備高が月間輸入額の3カ月分を切っても問題なく、対外債務より小さくても問題ありません。

(4)政治・社会情勢によるカントリーリスクの兆候を示す経済指標

重要な3つの指標を見ていきたいと思います。

①消費者物価上昇率

消費者物価上昇率、つまりインフレ率は社会の安定に大きな影響を与え、一般的に10%を超えると暴動がおこりやすくなり、20%を超えると、いつ何が起きても不思議でない危険水域に入るといわれています。

②失業率

失業率も一般的に10%を越えると暴動がおきやすくなり、20%を超えると危険水域といわれています。

③悲惨指数

消費者物価上昇率と失業率(季節要因調整後)を足したものが悲惨指数(Misery Index)とよばれています。この数字は10%を超えると要注意、20%を超えるとその国の政権に悪影響を与えるといわれています。

過去、悲惨指数が20%を超えた国は、全てではありませんが、実際に革命や暴動などが起きています。2004年12月のウクライナのオレンジ革命、2010年12月のチュニジアのジャスミン革命、いわゆる「アラブの春」と呼ばれた革命騒ぎです。どちらも悲惨指数が20%を超えていました。20%を超える国はカントリーリスクの崖っぷちにあるといえるでしょう。

参照文献:保坂賀津彦著「海外債権管理の実務ハンドブック