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研究員レポート

海外取引の与信管理について(4)〜海外取引の債権回収について

債務者の支払能力と支払意思

海外の債権回収を行うにあたっては、海外債務者の支払能力と支払意思の観点から分析することが、まず大切です。債務者の状況は大きく次の4つに大別でき、それぞれに応じた対応が求められます。

(1)支払能力もあり、支払意思もある場合

債務者は債務を認めており、回収原資もあるため、自社で交渉により粘り強く回収を進めるべきです。

(2)支払能力はあるが、支払意思がない場合

このような債務者には徹底的に回収を進めるべきです。強制執行にかける資産を有していることから、訴訟も辞さない態度で交渉に臨むことが肝要です。

(3)支払能力はないが、支払意思はある場合

返済原資がなく、弁済できる状況ではありませんが、債務を認識し、弁済する意思はあるので、自社の交渉により回収を試みるべきです。こうした債務者に対しては、分割弁済や債務の一部免除も検討すべきでしょう。債務者の再生を支援しながら、回収を図ることになります。

(4)支払能力がなく、支払意思もない場合

このような債務者に対しては、打てる手は殆どありません。時間と労力をかけて回収を図るよりは、回収不能債権として損金算入できる道を検討すべきです。利益を圧縮でき、税金を支払わなくてすむことにより、間接的に債権額の一部を回収できたと考えることができます。

海外債務者の危険な兆候

債権回収において重要な点は、早い段階で適切な回収手段を講じることです。その為には、支払遅延の兆候を早めにつかむことが大切です。海外の取引先の危険な兆候は次のような段階をもって進んでいきます。

第一段階:海外債務者の連絡頻度やスピードの低下など

海外債務者から連絡頻度が少なくなるのは、その債務者における自社の重要度が低下しているためです。例えば事務所移転しても通知してこないなどがあります。インターネットの時代、商売継続可能ですが、訴訟などになった場合、大きな問題となります。この為、定期的に海外債務者を調査することが重要です。

第二段階:支払条件変更の要請など

支払条件の変更は債権回収に大きな影響を与えることがあります。例えば、「L/C取引を後払い取引に変更したい」等の依頼は取引銀行からL/Cの発行を断られた可能性もあります。また「請求書を再発行してほしい」等の依頼は支払の引き延ばしを図っている可能性があります。

いずれにせよ、取引条件の変更に対しは、その理由を早期に確認し、遅延債権を発生させないよう、早い段階での適切な措置が必要です。

第三段階:支払遅延や長期化など

支払遅延は最もわかりやすい債務者の危険な兆候です。数日程度の支払遅延は、海外取引先ではよくあることですが、1カ月を超える支払遅延は何かが起きていると考えた方がよいでしょう。タイムリーに効果的に支払の督促をすることが重要です。

第4段階:格付の低下など

前回の調査時点と比べ、格付けが低下した場合は極めて危険な兆候です。格付けの低下は海外債務者の財務状況が悪化したことが主要な要因となりますので、資金調達等に大きな影響を与えます。早期に海外債務者の状況を確認し、適切な対応が求められます。

第5段階:回収代行の履歴増加など

債務者に対して他の債権者が回収代行を依頼したことが新たに判明した、件数が増加した場合も要注意です。他の債権者が、その海外債務者から債権回収を自社で行うのは難しいと判断した証拠だからです。短期間での急激な増加は倒産のリスクがあります。

また、顧客に新たな担保が設定されたなどと合わせ、極めて債権回収に重大な事態が発生しているとの認識の上、早急な対応策が求められます。

その他、海外債務者の危険な兆候としては「急な大口発注」があります。急な大口発注は、倒産間際に仕入れた商品を売り払い、高利貸しの返済に充てる、逃走資金を作るといった目的で利用される可能性があるからです。

また「法令違反・不祥事発生」も注意しなければいけません。企業は社会的信用を失い、一気に企業を苦境に貶める可能性があるからです。「法令違反・不祥事事件」が発生したら、倒産と同等の危機と捉え、直ぐ取引を停止する等、緊急対応をとらなければなりません。

更に「会社分割・営業譲渡・会社合併」、「多額の企業買収」、「主要子会社の倒産」なども、その企業の財務状況、会社機構などを大きく変えることになり、注意が必要です。

外部環境の変化要因としては、「親会社の業績悪化、親会社の持株比率の減少」、「主要な仕入先・販売先の倒産」、「カントリーリスクランクの下落」などがありますが、日頃から、注視していくべきものと思います。

支払遅延への対応

支払遅延が発生した場合は、速やかにその原因を特定し、確実に督促することが大切です。

インボイスの問題の解決

「インボイスを発行していなかった」、「インボイス金額間違っていた」等、自社に非がある場合の解決は簡単で、速やかに再発行するなど対応すればよいでしょう。しかし、取引先が支払いを引き延ばすため「インボイスを受け取っていない」などいってきた場合は、即座に相手と連絡をとり、債務が存在することを債務者に認識させることが一番大事です。

商品の問題の解決

商品クレームは対応が難しくなります。汎用品であれば同じ商品を再送すればよいでしょうが、特注品は現地に行かなければならないこともあります。

商品クレームは支払を引き延ばすため行われることもあり、対処方法としては、クレーム内容をしっかり記録し、取引先と交渉していくことが重要です。インボイスと同様、支払債務を相手に認めさせることが重要です。

具体的支払遅延対応策

1)債務確定

相手に債務を認めさせるにはどうしたらいいでしょうか?まず債務を認めさせる確実な方法は手形や小切手をもらうことです。先日付小切手でも構いません。小切手があれば、債務が存在していることが明確になります

もう一つは、米国の多くの企業が行っているもので、「取引残高証明書(Statements of Account)」を利用することです。売掛金明細が記載されており、相手の買掛金明細と突き合わせることにより、正確な債務残高が確認できます。

2)督促

督促方法は電話、督促状、(e-mail,手紙)、訪問の3つの方法があります。最も効果があるのは、双方のやり取りができる電話でしょうが、電話はタイミングと事前準備が大切です。相手が不在の時を避け、効率的な質問が出来るよう事前準備が必要です。督促状は電話と併用すると効果があります。訪問は海外取引先の場合はハードルが高くなりますが、直接話し合えるので、最も成果が得られやすいでしょう。

以上、支払遅延に対しては、回収の明確な目標を設定し、期限を設定して効率的な回収を図ること、そして督促は定期的に行い、相手に対して対応の習慣づけをしていくことが早期の資金回収につながると思います。

以上

参照文献:
牧野和彦著「海外取引の与信管理と債権回収」税務経理協会
保坂賀津彦著「海外債権管理の実務ハンドブック」中央経済社