中国の4月から6月期の成長は7.7%どまりか?
はじめに
日本経済新聞社と日経QUICKニュースがまとめた中国のエコノミスト調査によると、中国の2021年4月から6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比の伸び率7.7%と予測されていました。新型コロナウイルスの勢いを抑え込んで回復基調をたどると読んでいました。ただインドデルタ株の流行や消費の弱さなどの懸念もあって、下期は勢いが鈍ると言う見方も多くなってきています。
成長率は日本や欧米を上回りそう
4月から6月期の成長率の見通しは6%から10.5%と前期比で見た伸び率の予測平均は1.4%と1月から3月期の0.6%を上回る見込みとなっています。21年通年の成長率見通しは8.6%と国際通貨基金(IMF)の4月時点の見通しによる米国(6.4%)やユーロ圏(4.4%)日本(3.3%)を上回ります。
コロナからの反動に期待
成長率を押し上げている最大の要因はコロナからの反動です。中国は感染の拡大した20年1月から3月期にマイナス成長となって大きく経済が落ち込みました。その後は急速に回復しています。また21年1月から3月期は18.3%の大幅な反動増を記録、4月から6月期に反動の影響が残っています。
ただ実体経済に勢い・力強さを感じません。6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)で輸出の先行指標となる新規輸出受注の指数は節目の50を下回っています。世界経済の回復に伴って各地のサプライチェーンが正常化。中国頼みの特需もはがれてきています。
「今後は輸出需要の減速や信用創造の面で内外からの逆風が強まりそう。成長の勢いは21年4月から6月がピークでその後弱まりそう」とアクサ・インベストメント・マネージャーズの姚遠氏はみています。
消費の面で苦戦も
消費の弱さも気になります。京東科技の沈氏は「5月の経済データは予想ほど伸びていない。回復の基盤はまだ弱い。支えが輸出と不動産投資で消費や製造業投資の回復は遅い」と分析。またユーラーヘルメスの黄氏は「コロナ後の国内経済は回復途上の中。政策主導の投資や民間投資に加えて裾野の広い景気回復には個人消費の改善が不可欠。家計の心理はまだ正常に戻っていない」と指摘しています。
今後はコロナの反動増も小さくなりそうとの見方もあります。光大新鴻基の北氏は4月から6月期の8.0%から7月から9月期の6.7%、さらに10月から12月期の6.2%程度と徐々に減速すると予想しています。また21年の通期の成長率を下方修正する動きも出てきています。バークレイズは消費とサービスの弱さを踏まえて9.4%から8.4%に、BOFAは8.5%から8.3%にそれぞれ引き下げています。
感染の再流行を懸念
今後のリスクを複数回答可能で聞いたところ、回答者の半数以上の方が「ワクチン接種の遅れと変異ウイルスからの再流行」を挙げています。中国は感染者が見つかると移動制限などで厳しい措置を取るので、欧米よりも経済のダメージが大きくなります。
中国南部の広東省で5月末にデルタ株の変異ウイルスとみられる感染者もみつかっています。そのため大規模な移動制限が導入されて、港湾のコンテナターミナルも一時閉鎖されました。感染拡大は社会不安につながるため、経済よりも防疫を優先します。みずほ銀行の細川氏は「1か月程度で抑え込めそうな感じはするも、感染の拡大時は経済活動が停滞化する」と指摘しています。
ワクチン接種も進んではいない
中国メディアは、国内でワクチン接種を2度終えている方は全体の4割程度、年内には7割という目安を立てています。ただ中国製のワクチンは変異ウイルスへの耐性が低いという報告もあります。接種が進んでもコロナへのリスクが消えにくいという不安が残ります。
オックスフォード・エコノミクスの胡氏は「感染の再拡大はサプライチェーンの混乱や出荷の遅れによって生産や輸出に悪影響が出ます。企業の投資心理も下げてしまう」と警戒しています。
三人っ子政策
中国共産党は少子化に歯止めをかけるため、1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を出しています。ただ「三人っ子政策」を行っても出生率は改善しないだろうという見方が強くなっています。
三井住友DSアセットマネジメントの佐野氏は「中国は住宅価格だけでなく教育費も高騰している。子供1人育てるのも厳しい。3人を容認しても事実上人口の大きな反転は難しいのでは」と指摘しています。野村国際の陸氏も「子育ての費用と2人っ子政策ですら効果は限定的だったので3人っ子政策をしても大きな効果は望めないのではないか」という見方もあります。
東亜銀行の林氏は「不動産価格の高騰や長時間労働も若い世代が子どもを持つのをためらう原因、出生率を上げるには補足の政策が必要」と話しています。工銀国際の程実氏も「女性の就労促進や社会保障の充実、出産費用の低減などの政策と組み合わせることで効果を上げる」という意見もあります。
人口減少で経済が下がる
想定よりも早めの人口の減少は中国経済の下押しの原因になりそうという見方もあります。ムーディーズ・アナリティクスの朱氏は「高齢化は消費と財政に多くのリスクを及ぼす。地方政府が年金債務の急増に直面、医療制度にも負荷がかかる」と指摘しています。
DWSのショーン氏は「中国の人口は今後5年以内にピークに達する可能性が高い。ただ労働参加率や生産性の向上を目的とした政策が逆風を和らげる」という楽観的な見方もあります。またオックスフォード・エコノミクスの胡氏は「労働力の減少が必ずしも経済成長の停滞を意味するわけではない。消費を損なうことなく社会保障制度を改善できるかどうかも重要」という指摘もあります。
参考資料・出典
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM022RO0S1A700C2000000/