次の大暴落で最もひどい影響を受けるのは日本だ ジム・ロジャーズ氏が変われない日本に警告
シンガポール在住、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。引き続き、大投資家であるジム・ロジャーズ氏の『世界大異変:現実を直視し、どう行動するか』から世界情勢を解説していきます。
今回は日本と世界経済の未来についてお伝えします。
「巨額のお金を刷ったツケ」は若い人たちに
『世界大異変:現実を直視し、どう行動するか』(東洋経済新報社、7月22日発売)。書影をクリックするとAmazonのサイトの購入ページにジャンプします。
「世界の中央銀行は信じられない額の通貨を発行し、大量の株や債券の買い入れのために巨額の資金を使っている。コロナ以降の経済回復は早かったが、これだけの巨額の資金を使えるのなら、誰もが楽しい時間を過ごせるだろう」
確かに、世界中の中央銀行の金融緩和によって、「新型コロナショック」は一見、最悪の状態を免れたのかもしれません。しかし、ロジャーズ氏はそんな都合のいい状況が続くわけはないと言います。
「しかし、これは若い人たちにとっては、悲劇的とも言える悪い事態だ。私のような高齢者はこの代償を払う必要はない。なぜなら次の大暴落が来たときには、おそらくもうこの世にいないか、残りの人生の時間はきわめて短いからだ」
「お金を印刷し続ければ続けるほど、次の大暴落は、よりひどいものになる。そして、数多くの国家が痛手を負うことになるが、その中で一番ダメージを被るのは日本になる。なぜなら、日本の出生率は低く、外国人をほとんど受け入れておらず、日本銀行は今もなお大規模な緩和を続けているからだ。巨額のお金を刷れば、それだけ通貨の価値は下落する。そして、円安のデメリットは、若い人に対してより重いものになる」
「コロナ給付金」「Go Toキャンペーン」など、大規模なバラマキに思うところがあった人もいるでしょう。日本だけではなく、欧米諸国でも金融緩和政策だけでなく、度重なる大規模な財政出動が行われました。ロジャーズ氏はその中でも異例の長期にわたる日本の金融政策について心配をしています。これだけの緩和を続けてきた先進国の中央銀行は過去にないからです。
「日本に関して言えば、いくら日銀が株や債券を操作しても、相場参加者のほとんどが『日銀は信頼できない』と感じており、円を売り込んでいる。長い間、円は安全通貨であり、他の通貨よりも安定していると考えられていた。だが、最近になってマーケットは日本に対して不信感を募らせている。日銀が何を言っても、マーケットはもう日銀の言葉や行動を信用することはないだろう」
「日銀が緩和を続ける限り、円安は続き、いずれ日本国内の誰かが、これほどまでの円安は健全ではないと気づくだろう。そしてどこかで日銀もスタンスを変え、利上げなどの金融引き締めを実施するだろう。だが、そのときには、わずかな引き締めでは足らず、日銀は信頼を勝ち取るために何度も利上げをしなければならなくなるだろう。そのことは、多額の債務を有する日本には大きな試練となる」
「金利上昇」「円安」「物価上昇」の悪循環の懸念
確かに世界的に見ても、日本はGDPに対しての債務の比率は大きく、なかなか利上げに向かうことができない状態です。そんな中でも永遠に金融緩和を続けるわけにはいきません。
もしどこかで利上げに転じる際には、債務の多い日本には大きな受難が来ると予測されます。金利が上がると利払いが増え、住宅ローンを組んでいる家計を直撃するでしょう。また、資産運用をしている人にとっても、利上げは株価の下落リスクを高めることとなり、老後資金にも影響が及びます。
さらに、利上げしても中央銀行への信頼が低下したりすれば、円安が進み、留学や海外旅行も一段とお金がかかることになります。輸入品の値段も上がります。
「日本の将来を考えたとき、ものすごい勢いで子供を増やすか、移民を受け入れるか、とんでもないスピードで借金を減らすなどしない限り、この先も安全で豊かな社会が長く続く見通しは絶望的だ。このまま、若者が減って高齢者が増え、社会保障のサービス水準が変わらないとすると、数少ない若者に重税を課さない限り、借金は増え続けることになる」
ロジャーズ氏は続けます。
「このまま何もしなければ、日本には恐ろしい未来が待っている。すぐに消滅することはないが、経済破綻した他国と同じように、外資に買われまくる運命をたどるだろう。大多数の中間層は、今よりも貧しくなる。そうすれば、おそらく現在のような穏やかで豊かな社会は維持できなくなる」
日本が大好きな同氏は、つねに若い世代を心配しています。
「改めて、私は日本の子供たちに伝えたい。『あなたが10歳だったら日本から逃げるか、AK10-47(携帯用の自動小銃)を使えるようにしろ』と。生きているうちに、社会の混乱から逃げられないからだ」
今回が「ラストチャンス」になるかもしれない
参議院選挙が終わりましたが、与党も野党も、多くの候補者は給付金を配るなどの財政を拡大する方向で経済政策を訴えていた、と感じました。
ロジャーズ氏が突きつける「少子化対策」は、「シルバー民主主義」が幅を利かせている日本ではなかなか受け入れられないほか、「国の借金を減らす」「移民を増やす」という政策も、「まずは目先の1票」しかない近視眼的な政治家にとっては後回しにされがちな政策です。結局、「ほとんど何もなされないまま、時が過ぎて手遅れになる」と同氏は繰り返します。
絶望的な未来を回避するためには、金融緩和が継続されている数年の間に、日本から画期的な技術革新が生まれることを期待するくらいなのかもしれません。低金利で円安の間に、経営者や個人が「稼げる産業」にシフトし、将来に備えることができるのか。今回がラストチャンスになるのかもしれません。
個人としてできることがないわけではありません。もし円の価値が落ちても将来も購買力を維持できるように、一定の外貨や外国資産を持つことも必要になるでしょう。また、英語や中国語などを身につけるなどの防衛策もあります。
シンガポール在住の身からすると、日本の算数教育などは先進諸国と比べても優れていると感じます。ロジャーズ氏が言うように、得意な分野を伸ばして、思い切って海外に飛び立つことも有効のはずです。
以上
出典:東洋経済オンライン 2022年8月1日