1. HOME
  2. ニュース
  3. 中国は今がピーク、ゆえに増す危険(The Economist)

中国は今がピーク、ゆえに増す危険(The Economist)

米国と中国が戦争に至る危険が最も高くなるのはいつだろうか――。中国共産党指導部が「中華民族の偉大な復興」と「世界一流の軍事力」を実現するとしている中華人民共和国建国100周年を迎える2049年ごろか。「国防と軍隊の近代化を基本的に完了する」目標の35年ごろか。あるいは米軍上層部が中国の台湾侵攻の準備が整うとみる27年ごろだろうか。

中国の習国家主席は10月に開かれる中国共産党大会で台湾への考えを明らかにするかもしれない=ロイター

米国の戦略地政学者2人の新著「Danger Zone: The Coming Conflict with China(危険地帯 来る中国との戦争)」(邦訳未刊)は危機は既に今、迫っていると主張する。共著者の米ジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズ教授と米タフツ大学のマイケル・ベックリー准教授は、米中対立は別の本のタイトル「The Hundred-Year Marathon」(邦題「China 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略」)といった状況にはなく、この10年で勝負が決まるという。

「トゥキディデスの罠」を覆す新説

というのも中国は今まさに「高みから転落」しつつあるか、既に衰退し始めた可能性があるからだと両氏は主張する。そうなら戦争の危険は減るどころか高まる。中国が力あるうちに台湾を奪おうとする可能性があるというのだ。

つまり、両氏の見解はハーバード大学のグレアム・アリソン教授の有名な「トゥキディデスの罠(わな)」の考え方を覆した。アリソン氏の説では、米中は古代ギリシャの新興都市国家アテネと、その台頭を懸念したスパルタが戦争に突入したのと同じ運命をたどる。だがブランズ氏とベックリー氏によればアテネは当時、既に新興勢力ではなく衰退と戦う成熟国家だった。大日本帝国が経済封鎖をされ1941年に真珠湾を奇襲したのは、そうした「最盛期を迎えた国が陥る罠」の一例だ。

中国は今がピークで、ゆえに米中開戦は近いとする見方に異を唱える専門家はいる。だが米政府とその関係者にはブランズ氏らのように米中関係を捉える向きもある。

中国の景気減速は「中所得国の罠」(貧しい国がある程度経済成長すると成長率が鈍化する)に中国が陥ったからかと議論する専門家もいる。彼らは米中対立の悪化や、台湾を巡る軍事的緊張の高まりも懸念している。

中国の意図を分析するのは、それが米国の政策に影響するため重要だ。シンクタンク米戦略国際問題研究所(CSIS)のジュード・ブランシェット氏は「中国は傍若無人に振る舞っているだけなのか、敵意をもって相手の隙をうかがっているのか見極める必要がある」と語る。「中国を差し迫った脅威だと考えるなら、我々は世界秩序での覇権争いは忘れて、全力を挙げて中国を軍事的に抑止する必要がある」とも指摘する。

中国台頭をもたらした要因が反転しつつある

これまで何人もの専門家が中国は崩壊すると予測してきたが、そうはなっていない。それでもブランズ氏らは、中国は複数の要因から目を見張る成長を遂げたが、それらが今、反転しつつあると主張する。まず人口が拡大から減少に転じつつある。市場改革の動きは中央集権の復活で頓挫し、革新的なテック各社は政府に服従を強いられ、政府は巨額債務問題への対応に苦戦している。

かつての緩やかな統制による「賢明なる独裁」は強権的政府に逆戻りし、ハイテクを駆使した監視社会に変貌した。そのため先進諸国はその台頭を歓迎するどころか対中貿易を抑制し始めた。

米ブルームバーグのチーフエコノミスト、トーマス・オーリック氏を含む一部の経済学者は、中国指導層は全面的な危機に陥るのを回避する資源と規制手段、経験を備えていると指摘する。同氏の著書「中国経済の謎 なぜバブルは弾けないのか?」の改訂版も近く出版される。

米スタンフォード大のオリアナ・スカイラー・マストロ氏と、米シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のデレク・シザーズ氏は、米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」への寄稿で、中国が一気に衰退する可能性は低いと主張した。中国が相対的に衰退するとしても緩やかなものになる、と。軍事力の拡大は続き台湾をいずれ占領しようとするが、彼らが急ぐ必要はない、と。両氏は中国が台頭中でも既に最盛期にあるにせよ、攻撃的姿勢は強めていくとみる。だが、だからといって米国は「長期的な競争のための力を損なうような短期的解決策に走るべきではない」と指摘する。

バイデン大統領は脅威の深刻化2030年代とみるが

バイデン米大統領は、中国を米国の最大の脅威とみているが、今は経済、政治の問題と捉えているようだ。同氏が3月に要求した2023年度の国防予算から軍事的脅威が最も深刻になるのは30年代とみていることが読み取れる。

同国防予算の伸び率はインフレ率を下回っており、主に将来の武器の研究開発に充てられている。米海軍の全艦艇の規模は既に中国を下回っており、30年代に拡大に転じるが、それまでは縮小が続く。米英、オーストラリアの安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づくオーストラリアへの原子力潜水艦の提供は40年より前に実現することはなさそうだ。

だが米軍は中国への警戒を強めている。米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官は「中国軍の脅威は20年代に入って増している。特に今後4~5年は確実に高まる。海の底から宇宙に至るまで中国は進化し続けている」と言う。その後任のジョン・アキリーノ司令官によれば中国は27年までに軍の近代化を終える考えで、3月に米上院の公聴会では、その達成までの時間は短くなりつつあると証言した。

インド太平洋司令部が早急に必要とする軍備リストの中でまだ予算がついていないものは15億ドル(約2100億円)に達する。大きな部分を占めるのが人工衛星の保護(または破壊)能力の向上、長距離対艦ミサイルの追加購入、同盟諸国と情報を共有できるネットワークの構築や新しい武器を試す施設の建設費だ。米議会はこの多くを承認しそうだ。バイデン政権が求めた国防予算8020億ドルに対し、上院軍事委員会は450億ドル、下院同委員会も370億ドルを上回る予算承認を勧告した。

政治日程こそが米中戦争の引き金となるリスク

米シンクタンクのジャーマン・マーシャル財団のボニー・グレイザー氏は、米中衝突は力の均衡の変化よりも政治的な変化が引き金になる可能性が高いとする。台湾が独立の動きを見せ、中国共産党がそれをもってメンツを潰されたと感じたら習近平(シー・ジンピン)国家主席は軍の準備が整っていなくても戦争を辞さないとみる。

ただグレイザー氏は、台湾併合の機会を失うと思わない限り現状を見守る可能性が高いとする。「習氏が台湾との再統一を果たさずとも共産党は崩壊しない」と指摘する。

むしろリスクは政治日程にある。10月半ばの中国共産党大会で習氏の3期目続投が決まるとされており、そこで習氏が台湾への考えを明らかにする可能性がある。アジアで今秋開かれる様々な首脳級会議で、中国とロシアがどの程度連携していくのかも明らかになるかもしれない。

米議会は超党派の議員が出した台湾政策法案を審議中だ。同法案には台湾を「北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではないがNATOの主たる同盟相手」とみなし、米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所所長を大使級に格上げするなど中国を挑発する内容が盛り込まれている。

11月の米中間選挙では、中国により強硬な共和党が上下両院のいずれかまたは両方を民主党から奪取する可能性がある。24年の次期米大統領選で共和党が返り咲く可能性もある。台湾も24年は総統選がある。次期総統が独立を求め、米国から承認を得たらどうなるか。それこそ米中戦争になりかねないとグレイザー氏は言う。

(c) 2022 The Economist Newspaper Limited. September 3, 2022 All rights reserved.

出典:日本経済新聞

ニュース

ニュース一覧

ニュースレター

国内外の企業信用格付け・企業信用調査、クレジットリスクに関する最新の情報をお届けいたします。
ご登録はこちら >>

【バックナンバー】

これまでに発行されているニュースレターを掲載しております。
バックナンバー >>

CRRIイベント情報

【終了いたしました。ありがとうございました。】
10月6日(水)14:00-15:30

「コロナ禍でのリスクマネジメントの重要性と与信管理強化」オンラインセミナー
詳細はこちらから >>