コロナの再拡大でアジアの市場が大打撃に
はじめに
アジアの新興国で資金流出の懸念が再び強まっています。新型コロナウイルスの感染拡大で景気回復のペースで遅れているほかに、先進国の将来の利上げを市場が織り込みを始めとして、新興国との金利差が意識されています。各国の中央銀行は資金の流出と景気への懸念の板挟みでとても悩んでいます。
流出額は110億ドル近く
国際金融協会(IIF)によると、海外投資家によるアジアの新興国の株式・債券売買動向は5月に5億ドル(550億円)の純流出となりました。これだけの額の純流出は2020年12月以来の5か月ぶりになります。いち早く景気が回復して資金の流入が続く中国を除くと流出額は108億ドル程度になります。
タイやマレーシアで多くの流出
国や地域別ではタイ・マレーシア・フィリピン・韓国の株式市場で流出増となっています。マレーシアのクアラルンプール総合指数やフィリピンのフィリピン総合指数は昨年末の水準を下回ります。インドネシアのルピアやタイのバーツなどの主要通貨は対ドルで昨年末よりも安い水準にあります。資源国などの他の新興国への資金流入が続く中でアジアからの海外マネーの資金の引き上げが目立ちます。
コロナの感染が高止まり
海外の投資家がアジアの市場を敬遠している理由は、東南アジアや南アジアを中心にして新型コロナの感染者が高止まりして、経済成長率が下振れする可能性が高まっているためです。マレーシアでは6月14日までのロックダウンを月末まで延長しています。大半の企業では操業の停止が続いています。タイでも飲食店の営業や外国人の観光客の受け入れの制限が続いています。政府は5月に21年の経済成長率を2.5%~3.5%を1.5%~2.5%に下方修正してきました。
アジアの通貨安が進む
インフレの進展が中長期的に欧米市場で金利の上昇が進むという見方が強くなっています。これが資金の流出傾向を高めていくだろうという予測があります。アメリカ連邦理事会(FRB)も年内にもテーパリング(緩和縮小)の検討を表明することで、金利の低いアジアの新興国からは一段と資金が流出して通貨安が進む懸念があります。
そこで難しい立場におかれているのがアジア新興国の中銀です。足元の景気のテコ入れを重視することで金融緩和を行いたいところですが、さらなる資金の流出を払しょくする役割も求められています。IIFのエコノミストであるジョナサン・フォータン氏は「新興国の中銀の今後の最重要課題はテーパリングに伴う市場の混乱にも動じずに先進国の利上げの波に遅れないこと」と指摘しています。
2,近年にも資金流出をしている
IIFによると13年5月に当時のバーナンキ―FRB議長が量的緩和の縮小を示唆して世界の金融市場が荒れた際には新興国から300億ドル程度の資金が流出したとしています。またシンガポール中銀の金融通貨庁(MAS)のラビ・メソン長官は5月の講演で「08年の世界金融の危機後に新興国に流入する資金規模は国内総生産(GDP)の1.3%とそれ以前の0.7%と比較して大きくなっていると。また「米ドルの1%の上昇がGDPの0.3%に相当する資本流出を新興国で引き起こしている」とも述べています。新興国の中銀は金融市場に与える影響に一段と目配りをせざるを得ない状況となっています。
インフレも継続
さらに足元で自国の物価上昇にも悩まされています。フィリピンでは21年になって政府のインフレ目標を上回る4%超の物価の上昇が続いています。またマレーシアでも燃料価格の上昇で4月の物価の上昇率が4.7%となって5月にはさらに高まる可能性があります。
追加の利下げに踏み切るのは難しい
三菱UFJ銀行の井野シニアアナリストは2月の利下げ後に一時的に通貨安に見舞われたインドネシアなどの例を挙げ、「アジアの中銀が追加の利下げに踏み切ることは難しくなってきている」と話しています。ブラジルやロシアなどの中銀が利上げを続けていく中で様子見を続けてきたアジアの中銀も世界のマネーの動きから目を話せない神経質な展開が続きそうです。
参考資料・出典
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM123JH0S1A610C2000000/