メキシコ経済の回復が遅れる
はじめに
メキシコ経済の回復が遅れていきます。好調なアメリカ経済の影響で製造業は持ち直すも、政府による新型コロナウイルス対策の財政出動が限られていて内需が停滞しています。またインフレも進んでいて、さらなる金融の緩和による下支えも計算がしにくくなっています。同様にアメリカ経済に依存をするカナダとも差が出ています。
大統領は好調という声明を
「自国の経済はとても良い状況といえる」ロペスオブラドール大統領は5月26日の記者会見でこのように述べています。同日公表の1月から3月の国内総生産(GDP)の確報値は前年同期比のマイナス2.8%と、4月末のマイナス2.9%よりは多少改善しています。
アメリカ経済の恩恵
ただこれも現政権の結果とはお世辞にもいえず、積極的な財政出動で押し上げられたアメリカ経済の影響が大きくなっているのではないかと思われます。アメリカ経済は1月から3月期のコロナ危機前の2019年10月から12月期のおよそ99%まで経済が戻りました。メキシコの輸出の8割はアメリカが相手になっています。
また3月の鉱工業生産指数も前年同月比1.5%の上昇となっています。自動車や機械設備の生産が堅調に推移して、2018年9月以来のプラスになっています。4月の貿易収支は15億ドル(およそ1600億円)の黒字を計上します。
内需は出遅れが目立つ
輸出は元気でも逆に内需は出遅れています。26日発表のGDPで分野別では鉱業や製造業などの第2次産業が2.0%減、金融やサービス業などの第3次産業は同3.4%の減少となっています。新型コロナの影響で飲食や小売は営業時間の短縮も影響しています。外食大手のアルセアや雑貨の小売大手のサンボンズは1月から3月期に最終的な赤字を計上。首都のメキシコシティの繁華街にも空き店舗が目立ちます。
IMFはアメリカには上方修正を見込むも
国際通貨基金(IMF)は、アメリカの21年の実質GDPについて、前年比6.4%増を見込んでいます。4月上旬の1月時点から1.3ポイントの上方修正となっています。3.5%減になっていた20年と比較するとマイナスを埋めてプラス圏に入ることのできる数値となっています。ただメキシコに関しては20年がマイナス8.0%で21年度の予想がプラス5.0%でマイナスを埋めきれないという予測も出ています。
カナダも順調に回復
カナダも20年のマイナス5.4%から21年はプラス5.0%とほぼマイナスを取り返せるという予測が出ています。輸出の7割はアメリカ向けで、アメリカ依存はメキシコと同様も財政出動による下支えも大きくなっています。
カナダ政府は21年4月19日、今後3年間で1014億カナダドル(およそ9兆1300億円)の景気刺激策を予算案に盛り込んでいます。フリーランド副首相は「「コロナ不況」による経済的な傷を癒して、より多くの雇用や繁栄をもたらす」という予算の意義を強調しています。
メキシコは財政出動に消極的
メキシコのロペスオブラドール政権は財政出動への消極的な姿勢を変えていません。財政の規律を重視している点は通貨への信頼という意味ではプラスでも目先の成長はマイナスになります。また物価上昇で中銀によるさらなる金融緩和にも期待がしにくくなっています。4月の消費者物価指数は前年比の6.08%の上昇と2017年12月(6.77%)以来の高い上昇率でした。前年のエネルギー価格の下落の変動が大きいも、エネルギーや農産品を除く「コア」も4.13%と中銀の政策目標の4%を上回りそうです。
メキシコは国内の政策が停滞する中でも、足元ではワクチンの接種を済ませている米国からの観光客の訪問も増加傾向にあります。外国人の観光客の消費は実質輸出にあたります。このような面でもアメリカ依存の経済が再び強まっています。
参考資料・出典
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN26ENL0W1A520C2000000/