米消費心理にインフレの影
はじめに
年明け以降に回復が続いてきた個人消費が陰る兆しが出ています。8月31日に発表された8月の消費者信頼感の指数は市場の予想を大きく下回って6ヶ月ぶりの低水準をつけました。新型コロナウイルスのインドデルタ型の感染拡大に加えて、消費者心理を鈍らせているのがインフレへの警戒です。
消費者信頼感指数が大きく下げる
8月の消費者信頼感指数は113.8と7月に比較して11.3ポイントも下げました。市場予測の123程度を大きく下回って、下落幅はコロナが急拡大した2020年4月以来になります。コンファレンス・ボードのリン・フランコ・シニアディレクターは住宅・自動車・家電の消費意欲が低下していると指摘しています。
8月13日に発表したミシガン大学の同様の指数も大きく悪化しています。市場では米国の消費心理が大きく悪化しているのか、複数の指標で見極めたいとのムードも強かったです。31日の指標も悪化したことで、アメリカの消費に変調が起こるリスクを意識されはじめています。
物価の急上昇が原因
コンファレンス・ボードのフランコ氏は急落の原因をデルタ株の影響とガソリン価格や食料品などの物価の急上昇を上げています。7月のアメリカの消費支出物価指数は前月同月比で4.2%上昇しています。商品相場の上昇や供給制約、経済対策が重なっておよそ30年ぶりの伸びを記録しました。
物価上昇は一時的?
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は物価上昇は「一時的」だと繰り返して強調しています。家計を対象にした物価の見通しの調査ではインフレへの警戒度が軒並み上昇しています。エコノミストの間では2022年もインフレが続くという見方が増えてきています。
インフレの観測を強めているのが住宅価格の高騰です。S&Pダウ・ジョーンズ・インディシーズが31日に発表した6月の全米ケース・シラー住宅価格指数は前年同月比18.6%増の上昇と過去最高を繰り返しています。フェニックスやサンディエゴ・シアトルという人気都市では上昇率が25%から30%に及んでいます。住宅バブル期の00年代半ばも大きく上回ります。投資目的の需要が強い一方で中古住宅の在庫は少ない状況が続きます。ゴールドマン・サックスのヤング氏は今後数カ月間でさらに上昇するだろうと見込んでいます。
インフレ率も上昇が勢いを増す可能性
ラグラム・ラジャン元インド中銀総裁はインフレが長引くことで市民のインフレの予想がさらに高まって、結果として実際のインフレ率も上昇の勢いが増すことも考えられます。インフレが一時的なのかは「誰にもわからない」としつつも、FRBが当初考えていたよりも長引くリスクが高まっている状況といえます。
パウエル議長は8月27日の講演で資産購入の減額(テーパリング)の年内の開始に前向きな姿勢を示しました。市場ではむしろ利上げへの慎重な見方に注目が集まっています。31日のダウ工業株30種の平均は小幅ながら下落するも史上最高値圏をキープしています。
今後が読みにくい
右肩上がりの相場を支えてきたのが、アメリカの消費の強さとインフレは一時的という見方がありました。足元の経済指標の悪化は消費者心理など先行指標が中心も、実際の経済活動にも陰りが広がり始めると、株高の前提は狂いかねません。
参考資料・出典
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN31ETX0R30C21A8000000/