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「縮小する日本市場」に中国企業が殺到する理由 新たな可能性が広がりつつある日中企業の連携

日本が中国ビジネスの最前線になっている……その理由とは?

今日の日本では5年前には想像できなかった光景が広がっている。中国で最も人気のあるSF小説でアジア初のヒューゴー賞を受賞した『三体』は、日本に上陸した途端に大きな話題となり書店を賑わせた。京都の街には中国電気自動車メーカーBYDの大型電気バスが走り、若い人たちは中国の人気ゲーム「荒野行動」やショート動画アプリの「ティックトック」を楽しんでいる。タクシーを呼びたければ中国の配車アプリである「ディディ」が使え、中国火鍋「海底撈」に行けば中国式のおもてなしを体験することができる。実は以上のような目に見えやすい消費者向けのサービスだけでなく、デジタルソリューションやクラウドサービス分野など企業向けのビジネスでも、中国テック企業の日本進出は活況を呈している。少子高齢化や人口減少の影響で市場自体が縮小する中、日本は中国ビジネスの最前線になりつつあるのだ。『チャイナテック:中国デジタル革命の衝撃』を上梓した、趙瑋琳氏が、日本が中国ビジネスの最前線になっている理由を解説する。

中国企業の海外進出戦略

振り返ってみれば、2000年代に入ってから中国政府は「走出去(海外進出)」戦略を掲げ、中国企業の海外進出を呼びかけ、国際競争力の高いグローバル企業を育てようとした。当初「走出去」戦略の主役は、国有企業を中心とするエネルギー関連会社だった。それが2010年以降、情報通信分野の大手プラットフォーマーやテック企業に移り変わっている。
EC最大手のアリババやSNS最大手のテンセントは、海外市場への参入や現地プレーヤーへの投資を通じ、海外での勢力拡大を図っている。

スマホやスマート家電を手掛けるシャオミはインドのスマホ市場のトップブランドにまで成長している。中印対立の逆風が強まる中、インドでスマホ新工場の建設と部品の現地調達の拡大を発表した。

中国企業のアフリカへの進出も活発だ。インフラが整備されていないため、リープフロッグする可能性が十分高いとみられる。中でも先陣を切ったのは、スマホメーカーの「伝音」で、深圳に本社を据える同社は中国国内では製品を販売しておらず、アフリカ一筋で事業を拡大している。

また、特筆したいのはショート動画配信のティックトック(中国国内版:抖音)だ。これは2020年に世界で最もダウンロードされたアプリだ。ティックトックを運営するバイトダンスは中国国内の急成長の勢いをもって2017年から海外に進出し始め、今や世界最大級のユニコーン企業だ。世界でのダウンロード数が累計で20億超を突破し、中国発のアプリが世界を席巻した好例となっている。

テック企業の海外進出は、中国企業のブランド力の向上と、中国発のビジネスモデル創出につながると中国国内で期待されているが、多くの課題に直面している。とりわけ、政治対立や現地市場の信頼獲得などの壁を乗り越える必要がある。

日本を目指す中国企業

積極的に海外進出に乗り出している中国企業が今、日本市場を目指し、日本が中国ビジネスの最前線になっている。その主な理由は以下のように考えられる。

理由① 実力を測るにはうってつけの市場

まず、中国国内ではネット人口の増加が限界を迎えているため、多くの企業はグローバル志向を高めている。そうした中国企業は日本の魅力を再認識している。日本は先進諸国の中では比較的市場が大きく、かつ海外企業にも市場は開放されている。

マーケットが成熟し、消費者の目が厳しく、法規制が厳格な日本は、企業が自らの実力を測るにはうってつけの市場である。日本で成功できれば、ほかの先進国でも成功できる可能性が高いとの考えもあるようだ。

理由② 日中関係の改善が後押し

次に、政治の影響も大きい。米中関係が険悪化の一途を辿る情勢下にあって、中国政府は日中関係の改善に力を注いできた。2018年5月にトヨタ北海道工場を訪れた李克強首相は、「両国のイノベーション提携や対話の強化が共通認識となり、日中協力も第三国市場開拓も積極的に進めていきたい」と述べるなど、訪日を機に日中両国間の経済交流強化に向けた機運は高まっている。

そうした政治の動きに対応し、中国企業は改めて日本市場の開拓に積極的な意欲を示している。
中国企業の日本でのビジネスは、製品提供型とサービス提供型の2つに大別できる。本稿でも後者、とりわけ、企業向けビジネスの事例をあげたい。ここ数年、デジタル技術で先行する中国企業が日本企業と提携し、ノウハウやソリューションを提供する場面が急増しているからだ。

物流ロボットやスマート工場を中心に事業を展開するGeek+は、2017年に日本に進出し、同社の自動搬送ロボットや物流ソリューションサービスが大和ハウス工業やトヨタの工場、アスクルの物流センターなどで使われている。

2018年に日本に進出した、3Dカメラ関連サービスを提供する3DNestの技術は、大塚家具のバーチャルショールームに導入され知名度を上げた。住宅メーカーの大倉は自社のスマートハウスに中国のIoTプラットフォーマーであるトゥーヤー(塗鴉科技、2021年4月に米国上場)のサービスを取り入れている。

また、ニトリが自社の商品検索アプリで採用したのは、欧米企業のサービスではなく、アリババがEC事業で蓄積した商品検索と在庫管理のノウハウを提供するクラウドサービスである。無人店舗を展開しようとしているダイエーも中国のスタートアップであるクラウドピック(雲拿科技)の技術を導入している。

このように従来の日本企業の中国進出一辺倒ではなく、現在、中国企業、とりわけデジタル分野のテック企業が日本に進出し、日本企業は中国発のデジタルイノベーションの多くを活用するようになっている。つまり、日中企業が相互進出の様相を帯びてきており、日中企業連携の新たな可能性が広がっている。

互いの強みを活かす連携を

日本の高度経済成長モデルはかつて中国の“先生”だったが、今や、互いに刺激し合い、学び合う関係へ変貌しつつある。そうした新しい関係の中で、イノベーションが生まれてくる可能性も大きい。

日本は、少子高齢化や人口減少、防災などの問題を抱えており「課題先進国」とも言われている。また、日本の優れたモノ作りを支えているのは、いいものにこだわり実直に技術を磨き継承していく「匠の精神」であり、日本には時間をかけて事業を継承拡大してきた創業100年を超える「百年企業」が多く存在する。

こうした日本の特徴に対し、「テクノロジーの社会実装」や「スピード感」、「起業家精神」などが中国の特徴だと言える。中国では「議論する前にまずやってみよう」という機運が高く、それがスピード感のあるテクノロジーの社会実装を実現している。また、時間をかけるよりスピード重視で成功を狙う傾向も強く、ベンチャー企業を次々と生み出しているが、多産多死であることも事実だ。

日中両国は、国民性や気質、イノベーションやビジネスに対する考え方などが異なるからこそ、相互補完的な関係で互いの長所を活かしながら、事業共創の新しい局面を切り開くことができると考える。

日本企業が中国のプラットフォーマーと連携し、中国市場の開拓に成功した事例はすでに数多くあるが、日中企業連携による日本市場および第三国市場の開拓は新たな試みだ。日中の企業が双方の強みやいい部分を学び合いながら、ビジネスチャンスを探っていく姿勢が今後ますます求められるだろう。

出典:東洋経済

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