ワクチンで経済回復に差 米欧上振れ、新興国は下方修正
はじめに
国際通貨基金(IMF)は27日に改定した世界経済の見通しで、21年の経済成長率の見通しを6.0%と前回4回の予測から据え置きました。回復力の格差が広がって、米国主導で先進国の成長率が上向いた半面、新興・発展途上国の回復のペースは鈍っています。IMFは新型コロナウイルスのワクチンの普及の差が世界経済の断層を広げていると指摘しています。
短期的に下振れリスクが大きい
ワクチンの普及を前提に22年の世界経済の成長率は4.9%と前回の予測から0.5ポイントが上方修正しています。ただ変異型の感染拡大といった不確実性が高まっています。世界経済は短期的に下振れリスクが大きいと強調しています。
先進国は成長・途上国は鈍化予測
21年の先進国の経済成長が上振れ予想となっているのに対して、新興国・途上国の成長率は下方修正という予測になっています。世界全体では前回と同程度の成長率になりそうです。6%の成長は現行のIMFの統計で遡れる1980年以降で最も高い伸びとなっています。19年の国内総生産(GDP)を100とすると20年の96.8にまで落ち込んだ世界経済は102.6まで回復。22年は107.6にまで拡大します。
けん引役はアメリカ
けん引役はアメリカです。財政出動とワクチンの接種の拡大によって、21年の成長率は前回の予測から0.6ポイント高めの7.0%、22年は1.4ポイント上方修正して4.9%を見込んでいます。バイデン政権による財政の拡大路線が続くものと想定しています。ユーロ圏の成長率の見通しは21年・22年を0.2ポイント、0.5ポイント上方修正しています。逆に緊急事態宣言が相次ぐ日本の21年の成長率の見通しは0.5ポイント低い2.8%に引き下げています。先進国全体で21年に5.6%、22年に4.4%の高成長を見込んでいます。
途上国はワクチン接種の遅れで
新興国・途上国の21年の成長率はワクチン接種の遅れと財政力の弱さから新興国・途上国の21年の成長率は前回よりも0.4ポイント低い6.3%とみています。中国は8.1%の成長を予測しています。インドは9%台の高成長ながらも感染拡大の影響で前回から3.0ポイントの大幅な下方修正となっています。
変異型の拡大もリスクに
IMFは変異型の感染拡大だけでなく、インフレの長期化やアメリカの財政出動の縮小などをリスクの要因に挙げています。例えば21年の後半に新興国・途上国で新たに感染の拡大、先進国でインフレが長引いて想定よりも早めに金融の引き締め・・といったリスクのシナリオを分析しています。その場合は25年の世界のGDPは現在の想定を1%上回り、その間の経済の損失は4兆5000億ドル(500兆円程度)と試算しています。
IMFが成長率を上方修正した欧米などでは直近のコロナの感染者数が拡大していますのでここが懸念材料になってしまう可能性があります。アメリカのゴールドマンサックスは26日にアメリカの年後半の経済の成長率について、サービス業の回復の鈍化を理由に下方修正しています。
政府債務はGDPと同額もしくはそれ以上の国も
政府の債務は21年で世界全体でGDPの98.8%、先進国平均で122.5%にまで膨らむ見通しとなっています。先進国のコロナ対策の財政措置は21年以降も続きそうですが、新興国や低所得の発展途上国のほとんどの施策は20年で打ち止めとなっているとしています。
参考資料・出典
日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2548F0V20C21A7000000/