Researcher report
研究員レポート
海外取引の与信管理について(3)〜海外取引のリスクヘッジ手段について
日本と異なり、海外では中国、韓国以外、あまり手形は流通していません。北米、アジアで比較的流通しているのは小切手です。欧州ではSEPA(Single Euro Payment Area)という国をまたぐユーロ送金制度が発達しており、小切手よりも送金取引が主体となっています。
地域によりリスクヘッジ手段にも特徴があり、米国では比較的ファクタリングがよく使われていますが、欧州では取引信用保険が多用されています。アジアでは国内L/Cが、中国では銀行引受手形が多く利用されています。
では、主な債権回収リスクヘッジ手段について見ていきたいと思います。
ファクタリング
ファクタリングは、ファクタリング会社が売掛債権を買い取り、代金を支払う取引です。ファクタリング会社は金利分を差し引き支払いますので、金利分を除いた分の債権を回収することが出来ます。ファクタリングにはノンリコースベースの取引とリコースベースの取引がありますが、リコースベースは不払いの保証はしてもらえず、手形割引と同じような機能を有していますので、保証を希望する場合はノンリコースベース・ファクタリングを申し込んでください。
尚、保証ファクタリングの詳細については、本クレジットリスク総合研究所の研究員レポートに掲載されている「国際保証ファクタリングの仕組みとメリット・デメリット」をご参照ください。
取引信用保険
取引信用保険は、保険会社が提供するサービスで、保険会社は保険料を受け取り、一定期間を超える支払遅延や取引先の倒産等で代金を回収できない旨の請求を受けると、保険金を支払ってくれます。
代表的な保険会社は、いずれも欧州の貿易保険会社であるEuler Hermes, Atradius, Cofaceの3社です。日本の損害保険会社、一部外資系会社も取引信用保険を扱っています。注意点は、基本的に全ての海外取引が付保の対象となることです。
取引信用保険の詳細は本クレジットリスク総合研究所の研究員レポートに掲載されている「取引信用保険の仕組みとメリット・デメリット」、並びに「保証ファクタリングと取引信用保険の共通点と相違点、メリットとデメリット」をご参照ください。
銀行を利用したリスクヘッジ手段(Domestic L/C、銀行引受手形)
貿易取引におけるL/Cのように、海外の現地取引でもL/Cが多用されている国があります。Domestic L/C、またはLocal L/Cと呼ばれ、インド、インドネシアなどアジア地域で流通しています。
Domestic L/C同様の経済効果をもたらすものとして、銀行引受手形があり、銀行が取引先の代わりに代金を支払うことを約束するもので、中国やトルコでよく利用されています。
Domestic L/C, 銀行引受手形のメリットは、信用度に多少の懸念がある取引先でも、銀行がリスクを取ってくれる可能性があることです。
カントリーリスクに対するリスクヘッジ手段について
いままで見てきたのは、いずれも企業の不払いや倒産リスクに対応するものでした。では、国が支払いを停止するカントリーリスクについてはどのように対応したらよいでしょうか?
よく利用されるカントリーリスクヘッジ手段は、日本の金融機関や日本貿易保険にリスクを引き受けてもらう方法です。こうしたリスクヘッジ商品を導入しておけば、邦銀や日本貿易保険が倒産しない限り、カントリーリスクが発現しても代金は回収できます。邦銀が提供しているカントリーリスクヘッジ商品から見ていきましょう。
(1)L/Cコンファメーション
L/CコンファメーションとはL/Cベースの取引で、相手国が支払停止した場合やL/C発行銀行が倒産した場合に、邦銀が代わりに代金を支払う保証取引です。オープンコンファメーションとサイレントコンファメーションの2種類ありますが、前者はL/C発行銀行がコンファメーションを付されていることを認識している取引です。
コンファメーションの保証料は輸出者が負担することになります。貿易保険と異なり、L/C金額全額の支払保証をしてもらえる点がメリットです。
(2)フォーフェイティング
L/Cコンファメーション同様、カントリーリスクやL/C発行銀行の倒産リスクをヘッジする手段で、代金をノンリコースで先に受け取る債権売却取引です。フォーフェイティングは銀行が買戻請求権を放棄するもので、ノンリコースの債権売却に共通しますが、営業上のメリットもあります。フォーフェイティングが成立すれば、事実上債権は回収できたことになるため、与信枠が空き、新規の販売が出来るようになります。
注意点はAt Sightの取引には利用できない点です。またL/Cコンファメーションも同じですが、邦銀がリスクを取れない銀行が発行するL/Cでは利用できない点です。
(3)海外取引信用保険
海外取引信用保険とは海外売掛先が倒産、または不払いを起こし、売主が損害を被った時、取引信用保険会社が与信限度額と保険条件に従い保険金を支払ってくれる商品です。
この海外取引信用保険は取引先の支払い遅延や倒産による回収不能などの与信リスクである信用危険だけでなく、戦争や外貨送金規制等の取引相手国のリスク、いわゆる非常危険もカバーしてくれます。
世界3大取引信用会社が取り扱っており、ユーラヘルメス信用保険会社(Euler Hermes)、コファスジャパン信用保険(Coface Japan)、アトラディウス信用保険会社(Atradius Credit Insurance N.V.)です。 日本の大手損害保険会社もこの世界3大取引信用保険会社と提携し、「海外取引信用保険」を取扱っています。
(4)貿易保険(日本貿易保険)
日本貿易保険の代表的な商品である貿易一般保険は、非常危険という名称でカントリーリスクによる不払いに対して保険金を受け取ることができます。
手順としては、日本貿易保険の海外商社名簿に輸出相手が記載されていれば、原則利用できますが、記載されていない場合は信用調査報告書等を提出し、審査してもらう必要があります。
保険契約を締結し、保険料を支払い、填補率が決められます。一部は自己負担となり、貿易保険の最大填補率は非常危険(カントリーリスク)で97.5%、一般危険(取引先の倒産や3カ月以上の支払遅延リスク)は90となります。
保険金を請求する場合には、各種の報告義務がありますので、必ず忘れずに報告しないといけません。報告を怠ると、保険金請求ができなくなるリスクが生じますので、注意してください。
以上
参照文献:保坂賀津彦著「明貝債権管理の実務ハンドブック」