22年の世界貿易、3.0%増に下方修正 WTO予測
【ウィーン=細川倫太郎】世界貿易機関(WTO)は12日、2022年の世界のモノの貿易量は前年比3.0%増にとどまるとの見通しを発表した。前回の21年10月時点に予測した4.7%増から下方修正し、21年実績(9.8%増)からも減速する。ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁の影響などで、物流が鈍化する。
オコンジョイウェアラ事務局長は12日の記者会見で「感染拡大と戦争がサプライチェーン(供給網)を混乱させ、インフレ圧力を高め、生産や貿易への期待を低下させた」と述べた。22年の実質経済成長率の見通しは2.8%で、世界の貿易量の伸びが経済成長率を下回る「スロートレード」はわずかながら回避する。
多くの地域で前年と比べた貿易の伸び率は鈍化する。輸出では北米が前年の6.3%から3.4%、欧州は7.9%から2.9%、アジアは13.8%から2.0%にそれぞれ低下する。
輸入で特に打撃が大きいのはロシアを中心とする独立国家共同体(CIS)で、12%減と大幅なマイナスになる。欧米はロシアへの貿易制限を強化し、企業は同国での事業を相次ぎ停止・縮小した。ドイツのシンクタンクによると、サンクトペテルブルクなどの主要な港で、コンテナ輸送量が半分程度にまで落ち込んでいる。
WTOは世界経済に深刻な影響を与える要因として、食糧価格の高騰を危惧する。世界有数の穀物生産地であるウクライナは小麦などの収穫・出荷作業が停滞し、黒海の港が封鎖され輸出も困難に陥っている。自国の保護のため食糧の輸出制限などに踏み切る国が増えれば、貿易の停滞はさけられない。
新型コロナウイルスも影を落とす。中国・上海市などでは感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)で、サプライチェーンの混乱が長期化する懸念が強まっている。一部の自動車関連の生産工場などは操業停止を余儀なくされた。
WTOは、23年の世界のモノの貿易量の伸び率は3.4%と、若干の回復を予想する。ただ、ウクライナ危機が収束する見通しはたたない。戦争が長期化したり、激化したりすれば「大幅な下振れリスクがでてくる可能性がある」としている。
新型コロナウイルスの感染拡大で20年は5.0%減と大きく落ち込んだ。21年は各国政府の大規模な景気刺激策やワクチンの普及で急回復し、世界貿易は回復途上にあった。
出典:日本経済新聞