財政支援策の段階的廃止に伴い企業倒産は増加の見通し(上)
大手信用保険専門会社のエコノミストが世界の倒産動向につき調査結果を報告しておりますので、お伝えいたします。
要約
世界経済は2021年と2022年に力強いペースで成長すると予想されています。しかし、新型コロナウイルス感染症のデルタ株やサプライチェーンのボトルネックなど、回復の足取りを弱めかねない下振れリスクは残っています。2022年末には、ほとんどの調査対象国で企業倒産がパンデミック前と比べ増加すると予想されます。これは主に、2020年に政府の支援措置で「救済された」企業が倒産するため、そして、倒産率が「通常」レベルに戻るためと考えられます。景気回復の減速が倒産件数をさらに押し上げる追加要因となるケースもあるでしょう。2021年と2022年の累積倒産件数がパンデミック前比で最も高い伸びを示すと予想されるのは、イタリア(+34%)、英国(+33%)、オーストラリア (+33%)です。
世界の企業倒産見通し
世界の企業倒産は、新型コロナのパンデミックにより世界経済が後退局面に陥った2020年に14%減少しました。2021年にはさらに1%のわずかな減少が見込まれますが、これは、2021年初め時点の増加予想からの大幅な下方修正となります。企業倒産が低位にとどまると予想されるのは、多くの国で財政支援措置の期間が延長されているためで、破産法の改正を通じた支援が一部で継続していることも、その理由と考えられます。地域別では、欧州で2021年に企業倒産の増加が見込まれる一方、北米とアジア太平洋では減少傾向にあります。 2022年には、ほとんどの国で財政支援策がそれまでに完全に廃止されている見通しであるため、世界の企業倒産は33%増加すると予想されます。財政支援がなくなれば、企業倒産件数は「通常レベルに戻る」ことになるほか、2020年に倒産を免れた一部の企業は破綻に向かうと予想されます。結果、3つの地域すべてで企業倒産は増加するでしょう。
世界経済の下振れリスク
世界のGDP成長率は2020年に3.5%のマイナスとなりましたが、2021年には5.8%のプラス成長に回復する見通しです。景気回復のペースは、ワクチン接種率が全般に高い先進国と、接種のペースが遅い新興国で不均一なものとなっています。経済予測に対する最も重要な下振れリスクはデルタ株と考えられます。ブラジル、ロシア、トルコ、南アフリカなど、ワクチン接種率の低い新興国にとっても深刻なリスクとなっています。 もう一つの景気下振れリスクは足元のサプライチェーンのボトルネックで、これによりリードタイムの長期化や生産コストの上昇といった事態が引き起こされています。ただ、特定のセクターを例外に(特に自動車業界の半導体不足)、大半のセクターではサプライチェーンの混乱が今年下半期以降に解消し始める見通しです。
ユーロ圏の経済動向
2020年に6.5%のマイナス成長となったユーロ圏のGDP成長率は、2021年に5.1%のプラスに回復すると予想されます。サービス業のパフォーマンスが力強い回復を示す見通しが明らかとなっています。全般に、2020年に最も深刻な景気後退を経験した国が、2021年に最大の回復を遂げると予想、2022年のユーロ圏GDP成長率は、比較的堅調な4.4%増と予想されます。 英国経済は2021年に6.9%成長すると予想されますが、パンデミック前の水準に回帰するのは2022年以降となる見通しで、回復を主導しているのは消費者で、ホスピタリティ部門が高い成長を示しています。
米国の経済動向
米国の経済活動は2021年第2四半期にすでにパンデミック前の水準を超え、GDP成長率は前年比で6.1%増に達しています。米国経済は2021年に5.5%拡大すると予想され、労働市場の急速な回復に支えられた強い内需がそのけん引役となる見通しです。来年のGDP成長率は 4.4%増と、在庫再積み上げを主な成長要因に、引き続き力強いペースが予想されます。
日本の経済動向
日本経済は2020年に4.7%縮小し、2021年にはその一部を回復する2.4%の成長が予想されます。デルタ株が今夏新たな感染の波をもたらし、第3四半期の見通しに影を落としています。2022年には堅調な輸出と消費回復を支えに、2.8%の成長が予想されます。
倒産件数が少ない要因
パンデミック発生当初の予想とは反対に、2020年には世界的な企業倒産の増加が実現しませんでした。むしろ、世界の倒産率は同年に14%低下しています。要因は2種類の政策で、1つ目は、大半の国が企業破綻を回避するために行った倒産制度の見直し、そして2つ目が、パンデミックによる経済への打撃に対応し、中小企業を支援するために世界各国の政府が導入した政策措置です。 倒産法の改正のほか、財政支援策も企業倒産を低位に抑える上で極めて重要な役割を果たしています。中でも、直接財政支援と納税猶予が最も効果的な政策措置となっています。 2021年にも企業倒産は全般に非常に低いレベルにあり、多くの国で財政支援の期間が延長されていることがその主因と考えられます。
(下)に続く
出典:アトラディウス 地域レポート(アジア版)2021年